「僕の人生、派手なところが一つもありません。大学時代は彼女がいた事もありましたが、実家に戻ってからというもの、出会いなんて一切無い。たまに出会い系サイトを使って女性と会ったりした事もありましたが、女性は当然援助交際目的。ダメだとは思いつつも、結局お金を支払っちゃうんですが…(笑)」

 勤務を終えると、コンビニで発泡酒とスナック菓子を買い、自室のパソコンの前で動画サイトを見ながら深夜一時頃まで過ごし、最後はアダルトサイトを見て寝る。休日は、ドライブと称して古本屋やホームセンターをふらつく。家族連れで賑わう回転寿司屋のカウンターで、ノンアルコールビールを片手に寿司をつまむのも、休みの日ならではのささやかな楽しみだ。勝又は言う。

「不足は無いけど、満ちても無い。そんな20年」

 そんな勝又の前に、ネットを通じて飛び込んで来た「ネオヒルズ族」の彼らの日常には、カネもオンナも、そして名誉まである……ように見えた。勝又は、自身が感じる“満ち足りない部分”をネオヒルズ族のライフスタイルにすっかり見出してしまったのである。

「ネオヒルズ族の重鎮・宮本さん(仮名)のSNSの投稿にイイネを押したりコメントを書いていると、宮本さんの弟子を自称するAから友達申請が来ました。すぐにダイレクトメッセージが来て、Aを含む宮本さんの弟子達数人と会って“ビジネス”の話が聞ける事になったんです」

 仕事を早めに切り上げ、一張羅のスーツを羽織ると、結婚式でしか使った事の無い絹のハンカチをポケットに忍ばせて、待ち合わせ場所である東京・新宿のとある場所へ向かった。勝又いわく「Aが住む超高級マンション」というその場所、実は芸能人や水商売系の人が多く住む事で知られる高級賃貸マンションだ。

 筆者は、別件の取材でその場所が詐欺の現場としてよく使われている事を知っていた。部外者でも入れるマンションロビーには、コンシェルジュのカウンターがあり、いかにも高そうなデザイナーソファなどが並ぶ。成功者を演出するには便利な場所なのだ。

「Aと他に二人。三人ともぴっちりとしたスーツにピカピカの革靴で、まさに憧れのネオヒルズ族でした。こんな場所僕なんかがいて…と恐縮しまくりでした」

 さて、勝又はそこで三人とどのような“ビジネス”の話をしたのか。

「宮本さんが作ったスキーム(事業計画)がベースです。ソーシャルサイトを使って、ライフスタイルを変えていく。ブログやSNSが出来るパソコンさえ持っていれば、初期投資はゼロ。そのお手伝いを、Aや他の二人がやってくれるというので、これは凄いチャンスだと思いました」

 勝又は様々な単語を使って“ビジネス”とやらの説明を私にしてくれるが、イマイチ要領を得ていない。筆者の調べによれば、彼らがいう“ビジネス”は単なるアフィリエイト広告で稼ぎを出す、という単純なものである。アフィリエイト広告とは、ウェブサイト上に出てくる画像や文字などの「バナー広告」を使って利益を出す手法で、表示されるだけでウェブサイト管理者に利益がもたらされる事があれば、ユーザーにクリックをさせなければ1円にもならないものなど、形態は多種に及ぶ。いわゆる「まとめサイト」と呼ばれるコンテンツも、この「アフィリエイト広告」によって収益を得ている。

「Aは“次世代育成パック”という30万円のセミナーを受けてみないかと提案して来ました。ブログなどSNSの書き方の指導があり、Aらのアカウントで僕の事を計5回紹介してくれるという内容です」

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