基本的にトランプ氏は、話を自分の都合のよい論点にすり替えながら、派手なジェスチャーと豊かな表情で見ている者を飽きさせない。きっと、テレビ番組で培った技なんだろう。だけど、自分にとって気に入らない、まずいことを言われると、一瞬、口が開き、ギュッと真一文字に口を閉じる。きっと瞬間的に、反論したいという感情の動きから口が開くと思われる。
人差し指を立てたり、相手を指差しながら罵倒する仕草もよく見られる。これはワンマン経営者や独裁者によく見られる仕草。自分がトップとして、相手を支配しているという潜在意識の表れだったり、威嚇し、喧嘩を売ろうとしている時に行いやすいもの。政治家は通常、自らの印象を悪くするのでこの仕草を避け、代わりに人差し指と親指で輪を作る。トランプ氏にとって珍しい仕草ではないが、最近、この仕草を見せた政治家で思い出すのは、フィリピンのドゥテルテ大統領だった。
さらに驚くような仕草をしたのは3回目。大統領選の結果を受け入れるかと聞かれ、「その時に考える」と答えただけでなく、不正選挙だと言いながら、拳を握り右手の親指を何度も下に向けたのだ。
大統領選挙だけでなく、選挙制度そのものにブーイング? アメリカの民主主義の根幹を成す制度を、候補者が批判するだけでなく、こんな仕草をするとはびっくり。
さらにさらにびっくりしたのは、富裕者層への増税についてクリントン氏が話している最中の発言。
「嫌な女」と言って首を振り、眉根を寄せて顔を歪めたのだ。表情を見るに、心の底からNOと言いたかったのだろう。女性蔑視の発言や行動で窮地に立たされているのに、今それを言う?
クリントン氏は、この発言を無視。ちらっと目が動いただけで、平然と話を続けた。
選挙におけるトランプ氏の勢いがよくわかったのは、討論会が終わった後の握手の時。1回目は、クリントン氏が先に手を出し、2人は握手した。握手しながら、トランプ氏はクリントン氏の背中に左手を回し、肩甲骨のあたりをポンポンと叩いたのだ。クリントン氏に嫌がる素振りはない。
握手しならが添えられる左手の動きは、位置が高いほど、気持ちの強さや相手への親しさを示すといわれる。嫌いな相手や初対面の人に、握手しながらこれをやられたら、あまり気持ちのいいものではない。この時はまだ、トランプ氏に勢いがあり、両者は拮抗していた。
2回目、今度はトランプ氏がクリントン氏に手を出した。握手すると、自分の方へとやや引き寄せるように引っ張り、左手で腰のあたりをポンポンと叩いた。背中から腰へと、弱気になったのか手が下がったのだ。この討論会で、トランプ氏は自らの劣勢を感じ始めていたのだろう。
最後の討論会、2人は握手することなく会場を後にした。トランプ氏は、もう選挙戦に勝てないという思いが、心のどこかに浮かんだのだろうが、選挙結果を受け入れると明言しなかった手前、握手することなどできなかったに違いない。
「事実は小説より奇なり」という名言通り、映画以上に面白いエンターテインメントを見せてくれた今回のアメリカ大統領選挙。11月8日に結果が出ても、まだまだ波乱がありそうな予感。