健康・長寿を実現できるかどうかは何を口にするかに大きくかかっている。「食生活でそんなに寿命が変わるのか」と疑問を抱く人もいるかもしれない。しかし、現実に分かれ道は存在している。
武庫川女子大学国際健康開発研究所の家森幸男所長は、ハワイとブラジルに移住した日系人の循環器疾患について、20年ほど前に比較調査を行ない、次のような結論に達した。
「ブラジルに移住した日系の人々は、生活習慣病リスクが高くなり、40代で心筋梗塞で死亡する人が急増。平均寿命も50代半ばまで低下していました。
理由は食生活の変化で、ステーキ肉に岩塩をたっぷりかけたシュラスコという料理をよく食べるようになった。脂肪と塩分を同時に摂るとコレステロールが過剰に吸収される。その上、魚も豆腐もほとんど摂らず、甘い菓子もよく食べていたそうです。結果、肥満は当たり前で、50歳代の4人に1人が糖尿病になっていました」(家森氏)
肉は人間の体に必要な食材だが、食べ過ぎと偏食に陥れば、寿命を縮める食べ物になるということだ。
「一方、同じ移住者でも、ハワイは違っていました。コレステロール値も正常で、尿中のナトリウムも低く、寝たきりや認知症の人もほとんどいなかった。ハワイではポリネシア風の蒸し料理が一般的で、肉と一緒に野菜もたくさん食べていました」(同前)
同じ肉でも、食べ方によって差が出るのだ。家森氏は、「長寿地域」として挙げたコーカサス地域(黒海とカスピ海に挟まれた地域)を例に出す。
「コーカサス地域の人々は日本人の2倍近く肉を摂っている。高地のために塩分の多い保存食に頼らざるを得ないのですが、脳出血は少ない。その理由は、茹でたり蒸したりして脂肪分を取り除いているから。そして、野菜や果物、ヨーグルトをふんだんに摂っているからです」
※週刊ポスト2016年11月11日号