入浴には疲労回復や血行促進、リラックス効果など、さまざまな健康効果があるといわれている。だが、中高年にとっては危険も多い。間違った入浴法は、突然死にもつながりかねない。
厚生労働省の研究班が入浴中の事故死の数を推計したところ、年間約1万9000人。そのうち約5割が12月から2月にかけて発生していた。冬はとくに“危険な季節”なのだ。入浴の方法によって、その“危険度”は大きく違う。リスクが高いのは「かけ湯」をせず、いきなりお湯に入ってしまうことだ。
「体を熱いお湯に慣らさずに浴槽に入ると、ヒートショックに陥る危険が増します」(近畿大学医学部病理学講座講師の榎木英介氏)
また、「長湯」もリスクを増やす。発汗で体内の水分量が減り血液が濃くなると、血管の詰まりも起きやすくなる。
「湯船に浸かる時間は10分以内が目安。それ以上になると血液への影響が顕著になる。湯温も39~41℃くらいが望ましい。“熱いお湯に長く”は熱中症のリスクも高めます」(前出・榎木氏)
加えて、注意すべきは浴槽からの出方だ。「急に立ち上がる」のはNG。脳に供給される血液が減り、起立性低血圧を引き起こしてめまいや意識の喪失(失神)が起こる。
溺死のリスクにつながるわけだ。浴槽から出る時は、手すりや浴槽のへりを使ってゆっくりと立ち上がる。あまり知られていないが、急激な血圧低下を防ぐために、湯船から出た後に体に冷たすぎない水をかけるのも有効だ。
また、入浴で心臓への血流が負担になることにも注意が必要だ。九州大学の研究などによれば、水圧で横隔膜が押し上げられるなどして心臓への「静脈還流」が増量し、負担が増えるという。負担を軽くするには「半身浴」で浅い湯に下半身だけ浸かるなどの方法がある。
もちろんアルコールを飲んだ後の入浴は絶対NG。高齢者は食後に血圧が下がる「食後低血圧」によって失神することもあるので、食後すぐの入浴も避けたほうがいいという。
“本当に健康にいい入浴法”を心がけたい。
※週刊ポスト2016年11月25日号