中国は、1999年から調査船「雪龍」をオホーツク海に進出させるようになり、2012年にはカムチャトカ半島南端を通過し、太平洋から大西洋までの北極海航路を往復した。北極海航路は地球温暖化の影響で北極の氷が減少し、近年、ヨーロッパとアジアを結ぶ最短航路として注目されている。
しかし、中国にとって千島列島は、東シナ海の南西諸島と同様、地政学的なチョークポイント(隘路、あいろ)となっている。この点でオホーツク海を完全に聖域化しようとしているロシアと我が国は、共通の利害関係にあるといってもいいだろう。
ロシアが択捉を手放すことが困難なら、先ずは国後を加えた「3島返還」で平和条約を結べば、北海道の陸自兵力を九州・沖縄に移動させ、空自の戦闘機を沖縄に振り向けることができる。また、ロシアも日本との関係が改善すれば、氷結状況で不安定な北極海航路よりも確実な「欧亜連絡鉄道」というランドブリッジを構築できるだろう。
オホーツク海に潜むロシアの戦略原潜は、米国だけではなく、中国向けでもあり、日露は平和条約締結によって、対中シフトを強化することが可能となるのである。
●えや・おさむ/1949年生まれ。早稲田大学法学部卒業。民族紛争・軍事情報に精通するジャーナリストとして活躍。早稲田大学アジア研究所招聘研究員。監修として『空母いぶき』、著書に『世界テロ戦争』(ともに小学館刊)など多数。
※SAPIO2016年12月号