■アニメだからこそできること
──主人公の勇利は、抜群のリズム感に恵まれながら、ガラスのハートの持ち主。昨年のグランプリファイナルで惨敗し、「現役続行と引退はハーフ・ハーフ」の状態。そんな勇利のコーチに、ひょんなことから世界選手権5連覇のヴィクトル・ニキフォロフが就任し、二人でファイナルを目指すことになります。勇利、ヴィクトル、そして勇利のライバル・ユーリ・プリセツキー(通称ユリオ)など、それぞれのキャラクターが光ります。
大塚:キャラクターの人生を想像させることが、ドラマを作る上では大事だと思っています。選手たちはそれぞれに特殊な才能を持っていて、その選手たちがどうやって競技に向き合っていくのか。勇利は、あんなどん底から始まるんですが、自分の弱さを受け止めて前に進もうとする。一方のユリオは、15歳ながら才能があって貪欲で、でもヴィクトルが勇利の元へ行ってしまって、孤独を抱えながらも大人たちと戦おうとする。アニメではありますが、一流のスポーツ選手の精神面や想いを丁寧に描かれていると思います。
ヴィクトルは女性人気が高いですね。カワイイらしいです。誰か一人のモデルがいるわけではありませんが、色々と妄想して見ていただけるのは嬉しいですね。一方、僕もそうですが、男性人気はユリオが一番ではないかと。見た目は美しく演技は繊細で女性的ですが、内面は徹底的に勝負にこだわるタイプ。お祖父ちゃんっ子っていうのもいいですよね。もちろんグランプリシリーズに参戦する各国の選手も含めて、スタッフたちはすべてのキャラクターに愛情をもっています。
──勇利は、ショートプログラムに4回転2本、フリーに4回転3本と、現実の男子フィギュアスケート選手とほぼ同レベルのプログラムを滑っています。今後、アニメならではの技などは出てきますか?
大塚:オリジナルな技はわかりませんが……いま、フィギュアスケートの選手たちって本当に進化しているし、創造的ですよね。監督と久保さんは常々、そうした現実に張りあえるようなアニメを作ろうと言っています。そのためには現実に近づきすぎて媚びるのではなく、いい距離感を保つことが大事かなと。今回の勇利の演技と実際のこの選手とだったら、演技構成点はどちらが上だっただろうかとか、そういう想像ができる範囲のリアリティを追求していると僕は思っています。見ている方には、その絶妙なリアリティを楽しんでいただきたいですね。
加えて、アニメだからこそできることもあると思います。独特のカメラアングルはもちろん、演技中のモノローグで、滑っているときの選手の気持ち、コーチの思いを表現するなど……。実際のところ、フィギュアスケート自体の綺麗さや迫力は、実写に叶わない部分もあると思います。でもアニメだからこそ、お客さんに届けられるメッセージがあると思っています。