コラム

米大統領選後のNY株沸騰の裏にヘッジファンドの戦術転換

安倍首相は各国首脳に先駆けて会談(トランプ氏Facebookより)

 ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利後、米国の株式市場は連日のように過去最高値を更新したが、その背景には何があったのか。海外金融機関の動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。

 * * *
 まず、米大統領選挙の結果が判明した直後の米国株式およびドルの上昇の経緯について、当事者へのヒアリングをもとに簡単に解説したい。

 選挙結果の大勢が判明した時間帯は、日本の株式市場がオープンしていたときで、ドナルド・トランプ氏がほぼ当選確実となった報道を受け、日経平均株価は一時1000円超下げる場面があった。

 しかし、それとは対照的に、その夜の米国株式市場は、寄り付きからプラス圏とマイナス圏が目まぐるしく入れ替わる展開となり、日本時間午前1時すぎからは急上昇を演じた。同時に、ドルも主要通貨に対して全面高の様相を呈していた。

 私が、選挙直前の10月30日まで海外投資家にヒアリングをしていた相場とは、まったく異なる展開となったため、何が株式市場に起きているのか、すぐに主要な投資家にヒアリングを実施した。すると、以下のような事実が判明した。

 ノーザントラスト、GEキャピタル、モルガンスタンレー・アセットといった中長期投資家である年金の運用会社は、静観をし、相場には参加していなかったと回答。また、ブラックロック、オッペンハイマー、JPモルガンなどの投信会社は、株価上昇局面では保有株式の一部について処分売りを行ない、「買い」は見送ったという。

 他方、ウィントンキャピタル、ブリッジウォーター、PGIといったヘッジファンドは、取引の途中から、堰を切ったように株買い、ドル買い、国債売りに転じたという。つまり、大統領選直後の「株高・ドル高」を演出したのはヘッジファンド勢だったのである。

 だが、選挙前のヒアリングでは、ヘッジファンドも他の海外投資家同様、トランプ氏の当選で株価は大きく下げると想定していた。実際、選挙前はショート(売り)ポジションを大きく積み上げており、それが「S&P500指数」の8日連続安につながっていたのだ。では、なぜ株買いを行なったのか。

 実は、すでに多くのヘッジファンドは10月初旬からショートポジションを拡大。選挙直前には、運用リスクの管理上、これ以上積み上げることができないという限界点に達していたという。そこで、さらなる運用リスクの拡大を回避するため、結果がどうあれ、ショートポジションの解消=株買いに踏み切らざるを得なかったというのだ。

 こうした事情はヘッジファンド各社に共通していたと見られ、大手がいったんショートポジションの解消に動いたことで他も次々と追随。投票日当日までマーケットのポジションがショートに大きく偏っていたため、瞬く間にトレンドが転換し、買い一色になったと考えられる。

 ある世界最大手クラスのヘッジファンドでは、次のようなやり取りがあったという。

「ショートポジション拡大の限界に来た時点で、内部で議論があった。トランプの政策リスクを考えれば、運用リスク管理上の事情でロング(買い)に転じるのは危険という意見がある一方、上院・下院で共和党が多数を占めた結果と選挙直後の議会との融和を意図するトランプの勝利スピーチを考慮すると、法人および個人の減税など政策の実現可能性が高まってきており、トランプ政権のポジティブな面にも注目すべきだという意見が出てきたのだ。その結論として短期的な戦術転換を決めた」

 こうしたヘッジファンドの戦術転換は功を奏し、その後、NYダウは連続で終値ベースの史上最高値を更新するなど、米国株とドルは上昇を続けた。

※マネーポスト2017年新春号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中川翔子インスタグラム@shoko55mmtsより。4月に行われた「フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート2025」には10周年を皆勤賞で参加し、ラプンツェルの『自由への扉』など歌った。
【速報・中川翔子が独立&妊娠発表】 “レベル40”のバースデーライブ直前で発表となった理由
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン
『ザ・ノンフィクション』に出演し話題となった古着店オーナー・あいりさん
《“美女すぎる”でバズった下北沢の女子大生社長(20)》「お金、好きです」上京1年目で両親から借金して起業『ザ・ノンフィクション』に出演して「印象悪いよ」と言われたワケ
NEWSポストセブン
奈良公園で盗撮したのではないかと問題視されている写真(左)と、盗撮トラブルで“写真撮影禁止”を決断したある有名神社(左・SNSより、右・公式SNSより)
《観光地で相次ぐ“盗撮”問題》奈良・シカの次は大阪・今宮戎神社 “福娘盗撮トラブル”に苦渋の「敷地内で人物の撮影一切禁止」を決断 神社側は「ご奉仕行為の妨げとなる」
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
《“手術中に亡くなるかも”から10年》79歳になった大木凡人さん 映画にも悪役で出演「求められるのは嬉しいこと」芸歴50年超の現役司会者の現在
NEWSポストセブン
花の井役を演じる小芝風花(NHKホームページより)
“清純派女優”小芝風花が大河『べらぼう』で“妖艶な遊女”役を好演 中国在住の実父に「異国まで届く評判」聞いた
NEWSポストセブン
第一子を出産した真美子さんと大谷
《デコピンと「ゆったり服」でお出かけ》真美子さん、大谷翔平が明かした「病院通い」に心配の声も…出産直前に見られていた「ポルシェで元気そうな外出」
NEWSポストセブン
2000年代からテレビや雑誌の辛口ファッションチェックで広く知られるようになったドン小西さん
《今夏の再婚を告白》デザイナー・ドン小西さんが選んだお相手は元妻「今年70になります」「やっぱり中身だなあ」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「王子と寝ろ」突然のバス事故で“余命4日”ののち命を絶った女性…告発していた“エプスタイン事件”【11歳を含む未成年者250名以上が被害に】
NEWSポストセブン
世界中を旅するロリィタモデルの夕霧わかなさん。身長は133センチ
「毎朝起きると服が血まみれに…」身長133センチのロリィタモデル・夕霧わかな(25)が明かした“アトピーの苦悩”、「両親は可哀想と写真を残していない」オシャレを諦めた過去
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン