日本最古にして最大のストリップ劇場「浅草ロック座」は、全国の踊り子がそのステージに立つことを夢見るエロスの聖地。第一級のエンターテインメントに観客たちは日々喝采を送っている。創立70年を迎える浅草ロック座に潜入した。
眩いスポットライトに浮かび上がる踊り子たちも、ひとたび舞台を下りれば素顔は様々。普段目にすることができないストリップ劇場の舞台裏では、客席からは窺い知れない厳しい現実がある。
「踊りの内容は舞台初日の10日ほど前に知らされます。振り付けの先生のアドバイスをいただきながら、まずは個人練習です」
初日の舞台を踊り終えたばかりの楽屋で、緊張冷めやらぬ様子の徳永しおり(22)が口を開いた。前日まで、劇場のステージを使い、全員衣装をまとって踊る本番同様のリハーサル「ゲネプロ」が続いた。夜11時から朝7時まで夜通し3日間、舞台稽古でしごかれた。
「踊り子はダンスの専門家ではありませんから、初日に間に合わせるのがやっとという子も多い。それを『表現』のレベルまで持っていきます」
そう語るのは、ステージの流れや選曲、ダンスの構成から衣装のテイストまで、すべて取り仕切る総合演出・永島明男氏だ。
「日本舞踊やタンゴ、フラメンコなど、様々なショーを取り入れます。したがって、振り付けもそれぞれの専門の先生にお願いします」(永島氏)
ゲネプロでは深夜の劇場に、「踊りに気を取られすぎて、笑顔がないんだよ!」と怒声が響く。ステージの袖では、場面転換で舞台から下がった踊り子たちが、慌ただしく次の衣装に着替えていく。狭い通路での動きゆえ、ぶつからないよう小さく声を掛け合いながら、誰もが緊張した面持ちで手際よく進む。
「大きい舞台に立ちたいという踊り子にとって、ロック座は憧れであり頂点だと思います。だから、どんなに辛くても頑張れる。初日の直前まで、手の指先から足のつま先まで気持ちを入れられるように、すべての動きを体に覚え込ませることだけ考えています」(徳永)
客席に張り出した「花道」の先に、「ベッド」と呼ばれる直径2mの円形のステージがある。踊り子は出番の最後にここで衣装を脱ぎ捨て、目の前の観客に肢体を晒す。踊り子にとって最大の見せ場だが、「浅草ロック座はストリップのくせにエロくない」との声も聞かれる。
「私は褒め言葉だと受けとめています。新しい形のストリップをつくっているという自負があるからです」(永島氏)
フロンティア精神が生み出す前人未到の新境地がこれからも楽しみだ。
撮影■橋本雅司 取材・文■末並俊司
※週刊ポスト2016年12月16日号