ありがたいことに、私が演じた、ちょっと伝統から外れたリアルテイストの男役をおもしろいと感じてくださるお客さまは日々劇場に増え、客席を埋めた。なかには「これまで宝塚を見たことがない」というかたがたも多かった。この言葉は、どれだけ肯定というハグで私を包んでくれたことでしょう。
でも、これだけは忘れてはいけない。宝塚には5つの組がある。だからこそできたことなのだと。
伝統を守ったオーソドックスな二枚目。時代に敏感な男役。圧倒的なダンスや歌で魅了するエンターテイナー。和物を大切にする人。それぞれの組に、それぞれの男役がいるから、お客さまは好きな男役を選んで見ることができる。
伝統的なものを自分という道具で咀嚼する。そして個性をちょい足しする。これは、男役に限らず、すごく大切なことだと思う。
たとえば、ファッション。今では当たり前になった、ドレッシーなものとハードなものを組み合わせるというコーディネートですが、最初にこれが登場したのは私が20才くらいのときではなかったでしょうか。ちょうどマドンナが『ライク・ア・バージン』を歌っていたころ。
あ、好きなように組み合わせればいいんだ! と目からウロコがボロボロ落ちました。 それからトレンドが何周かして、今はハイブランドとプチプラを融合させる時代に突入したのではないかと。そして、それが個性という色になる。
そう、個性! 私はこの言葉が好きだ。男役でなくなった今も、私は常にこの言葉に魅了されている。うん。しみじみそう思う。
撮影■渡辺達生
※女性セブン2016年1月12日号