目立つ場所に記念碑ひとつ見つからない日本橋と比べ、中国側のモニュメントは巨大だ。知らぬ人が見れば、両橋とも中国が作ったように見えるだろう。
「現場はプノンペン市にとって重要な幹線路。現在、ODA事業として日本橋の改修工事計画も進行中です。この工事の際に交通が途絶せずに済むので、中国橋の存在にメリットもある。カンボジア国民にとってはよい結果になっています」
国際協力機構(JICA)現地事務所の関係者は語るが、釈然とせぬ思いは残る。
ちなみに中国橋の建設が決定した2010年は、中国の対カンボジア年間援助額が、従来最大の援助国・日本の額を上回った年だ。以前はODAを受け取る側だった中国だが、ここ10年ほどで開発途上国を対象に「爆援助」を展開。中国の対カ年間援助額はその後も伸び続け、2014年度には日本の約2.7倍に達した。
もちろん、カンボジアの復興はよろこばしい。だが、大部分が無償援助である日本に対し、中国の援助は9割が有償借款(つまり借金)となっている。現在のカンボジアはそんな中国のカネに「国家予算の約5%」(JICA関係者談)を頼る状況である。
この「爆援助」による大規模なインフラ整備事業で儲けるのは中国企業だ。元JICAカンボジア事務所長の松田教男氏は話す。
「中国企業の工事は安価だが、事前調査や資材の吟味・安全対策などを軽視しがち。一方、インフラの耐久性への意識が希薄なカンボジア当局は、壊れる可能性を無視して初期費用が安価な中国企業に引き寄せられる。結果、すぐに劣化する道路や橋の修理を当局が中国企業等に何度も依頼し、結果的に高くつくのです」
頭金は安いが、中国企業にメンテナンス費を延々とむしられる構図である。
中国橋の走り心地は古い日本橋より良好だったが、築1年の割には汚れや劣化が目に付いた。やがてはこの橋も、中国にカネをもたらし続ける“永久機関”に変わるかもしれない。
※SAPIO2017年3月号