日本の伝統的な木造建築には、ふすまや障子、欄間などの建具に細い木材を組み合わせて、さまざまな文様を作る「組子」という独特の技術がある。
「組子は、釘や接着剤を使わず、細い木材を組み合わせていく精微な工芸で、0.1mm誤差も許されません」
「猪俣美術建具店」(新潟県上越市)の2代目・猪俣一博さんは、そう話す。
組子製品は、オーダーメイドが基本。だが、生活様式の変化に合わせて住宅が洋風化し、和室が減少。それに伴い、組子技法を使った建具の需要も減少し、廃業する職人も少なくないという。そんな中、“もっと組子細工を知ってもらいたい”と、猪俣さんは、ヒノキを組み合わせて、雪の結晶のように見える「ウッドクリスタルコースター」(直径10cm弱×厚さ1cm、1枚1620円)を発売。すると、“組子の新しい形”と注目を集めた。
「東京のインテリアショップから、アイテムを増やしたいと相談をいただき、コースターより大きい“鍋敷き”の商品化を決めました」(猪俣さん、以下「」内同)
組子は、通常柔らかくて加工しやすい針葉樹のヒノキやスギで作るが、鍋敷きにするには柔らかすぎて傷がつきやすい。そこで、針葉樹より少し硬い、広葉樹の中でも、加工しやすいサクラ材を選択。また、鍋敷きの場合は、鍋の重さに耐えうる強度や、熱がテーブルに響かない厚み、そして耐久性が必要となる。
「これらの条件をクリアするためには、建具には通常使用しない接着剤を使わねばなりません。ですが、普通のものだと熱で溶けてしまう可能性があるので、何を使うかなど、工夫を重ねました」
こうして完成した組子の鍋敷き(龍爪麻ノ葉:縦20.5cm×横23.5cm×高さ1.5cm、4860円)は、「鍋の下に敷いて隠してしまうにはもったいない」と、使用しない時はインテリアとして壁などに飾る人も多い。
組子は、棒状にカットした木材に、組み立てるための組手加工を精密に施してパーツを用意。大枠を組み立ててから小さなパーツを入れ込むように、手作業で組み立てる。規則的な幾何学模様に見えるのは、縁起のよい伝統柄で、“龍爪麻ノ葉”のほかに、“桜亀甲”、“八重桜亀甲”がある。すべて無塗料のサクラ材で、木材ごとに微妙な色合いが楽しめる。
※女性セブン2017年2月16日号