といった前提を考慮しつつ、初乗り料金が410円になったタクシーを超近距離で利用する場合に、どんな態度を取ればいいのか。何はさておき「すごく近くて、たいへん申し訳ないんだけど」と、今まで以上に遠慮がちで激しく恐縮している口調で行き先を告げる必要があります。走り出してから、「いやあ、大事な待ち合わせに遅れそうで……」などと、聞かれるともなしにタクシーに乗った必然性を呟いておくのもいいでしょう。
その上で、到着して料金を払うときには「えっ、410円! ああ、そっか。値下がりしたんですよね。うわー、なんかすいません」と、料金が変わったことにいま気づいたようなフリをしつつ、ふたたび謝りましょう。けっこう気もエネルギーも使いますが、そこまでやれば「やるだけのことはやった」という深い満足感に包まれるはず。
「雑魚の客」としての粋な作法が有効なのは、タクシーだけではありません。フラッと入ったお土産屋さんでいろいろ試食した末に何も買わないのも悪いのでいちばん安めのものをひとつ買うときにせよ、宅配便でタイミングが合わずに何度も再配達してもらったときにせよ、ちょっとした申し訳なさの表明をしておくのが、相手だけでなく自分自身も気持ちよく過ごすための極意です。
前者のケースなら「じゃあ、楽しみは次に来るときにとっておいて、今回はこれで」と言いながら会計をしてもらう感じでしょうか。相手は心の中で「次っていつだよ」と突っ込むでしょうけど、大切なのは「どれだけ試食しようが、客の勝手だろ」と思っているわけではないと伝えること。後者のケースだったら「何度も手間をかけてごめんなさいね」ぐらいのことはスラッと言えるのが、本当の意味での大人の威厳です。
「客としての作法」とは何かをあらためて考えるために、初乗り410円のタクシーであえて1キロぐらい先の目的地に行ってみるのも一興。きっと大人として大切なことをたくさん学べるし、大人としての経験値も上がるので、けっして無駄遣いではありません。懐に余裕があったら、500円玉で支払って「あの、お釣りはけっこうです。いや、ホント、申し訳ない」と言えば、大人の階段をさらにいくつも上ることができるでしょう。豪快なのかセコイのか、よくわからない話ですけど。