佐渡は、クラシック以外の音楽にも積極的に触れてきた。中学時代には、ディープ・パープルを聴き、ロックバンドでキーボードを弾いていた。昨年11月には、帰国したその日に妻の誕生日を祝ってドリームズ・カム・トゥルーのライブに足を運び、吉田美和のパフォーマンスに酔った。
「クラシック音楽だけしか見えてない人間になってはいけないと、どこかで思っているんですね。いまでも一人で行くバーは、だいたいジャズやロックがかかっている店。今井美樹の『PRODE』とかリクエストしますよ。クラプトンが来日すれば行きますしね」
佐渡は気さくで、エネルギッシュだ。柔らかな物腰からかバーで隣り合わせになった人も気軽に声をかけてくる。その人間的な幅広さは音楽にももちろん投影されている。55歳のマエストロの意欲は一向に衰えない。
「譜面を開くと、それが第九であったとしても、まったくの初心者に戻った気がする。これから取りかかるオペラも過去に振ったことがあるけど、演奏するオーケストラも違えば、演出家も歌手も違うし、まったく新しいチャレンジのように思える。僕は創造的な世界に常に身を置いていたいんです」
【プロフィール】さど・ゆたか/1961年生まれ。京都府出身。京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾に師事。1989年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、プロデビュー。パリ管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など欧州の名門楽団に多数客演を重ねる。2015年オーストリアで108年の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者を務める。昨年には絵本『はじめてのオーケストラ』(絵/はたこうしろう・1500円+税・小学館)の原作にも挑戦した。
今後の国内公演は、4/14~29東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団ツアー(秋田、北上等12公演)、7/14~23オペラ「フィガロの結婚」(兵庫県立芸術文化センター)、10/21~29ケルン放送交響楽団「運命」「未完成」ツアー(兵庫、大阪、京都、名古屋、東京等8公演)。詳細は佐渡裕オフィシャルファンサイトhttp://yutaka-sado.meetsfan.jp/
撮影■初沢亜利 取材・文■一志治夫(文中敬称略)
※週刊ポスト2017年2月24日号