英国ではテロ組織を支援する動画や過激サイトへの広告出稿問題が国会論争に発展し、日本企業の名前も取り沙汰されている。
〈ホンダのネット広告がネオナチ(ネオ・ナチズム)支援団体の動画に掲載〉
〈日産ディーラーの広告はレイプ妄想掲示板と極右団体動画に表示〉
〈ソニーは“反ユダヤ主義”を訴える人種差別系動画に広告掲載〉
これらは英紙タイムズが始めたキャンペーン記事だ。ネット広告の場合、反社会的な団体の広告に自動的に表示されてしまうこともある。この3社はすぐに削除依頼や広告の取り下げを行なうなどの対応に追われた。本来は企業価値を高める広告が、その価値を落とすという皮肉。日本の大企業が直面する「ネット広告問題」の難しさとは──。
迅速な削除はワールドワイド企業として当然の対応なのだろうが、それだけでは根本的な解決には至らないとされる。
タイムズ紙によれば、今回の騒動は「プログラマティック広告」と呼ばれるネット広告の最新手法の悪影響だと考えられる。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が仕組みを解説する。
「A氏という人物がいるとします。A氏のネット上での検索ワード、閲覧したサイトは過去に遡って把握することが可能です。その閲覧履歴などを専用のプログラムで解析することで、A氏の趣味嗜好や属性、おおよその年齢までわかってしまいます。
これらを活用することで、A氏が訪れるサイトにA氏の趣味嗜好に合った広告が自動的に表示される。これをプログラマティック広告と呼びます」
個人の履歴や嗜好を精密に広告表示に反映させることができるため、従来の広告より訴求力を増した。その分、次のようなケースも起こり始めたという。
A氏は車が趣味でよく自動車メーカーのサイトを閲覧するが、時にアダルトサイトを見たり、ニュースで知った過激派団体などを調べたりもする。すると、たまたま見たエロ動画やテロ組織の関連動画に、大手自動車メーカーの広告が表示されたのである―─。
これが今回の問題の構造だ。井上氏が続ける。
「プログラマティック広告は現在のネット広告の主流を占める手法で、日本も含め世界中で採用されています。タイムズの指摘した問題は、日本国内で活動する企業にとっても対岸の火事ではありません。企業側が気付いていないだけで、日本のアダルトサイト内に大企業の広告が出ている可能性もある。今はまだ英国だけの問題という認識でとどまっていますが、今後日本でも顕在化するはずです」
※週刊ポスト2017年3月3日号