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日本の裁判官 「出された紅茶は飲むな」と教えられる

 1月に出た泉徳治氏の「一歩前へ出る司法」(日本評論社)は、定年退官した日本の最高裁判事の肉声を伺える貴重な一冊である。

 泉氏は2002年11月6日から2009年1月24日まで、最高裁判事を務めた。その間、25件の反対意見を書いている。反対意見とは多数意見(判決)に反対する判断を示すことである。泉氏は長く裁判所事務局に勤めたいわゆる「司法行政エリート」で、そのような出身判事は得てして「社会秩序重視派」として多数意見の列に並ぶことが多い。泉氏のような立場は珍しい。その信念は「裁判官は民主主義のプロセスが適切に行われているかチェックすることと、多数決原理では保護されない少数派の人権を救済すること」である。メディアで働く者も胸に刻みたい言葉である。

 この本の中で泉氏は日本の裁判所が抱える問題点をいくつも提起しているが、ひとつだけ紹介しよう。それは裁判官の少なさである。

 泉氏はドイツでは通常裁判所、財政裁判所、行政裁判所、社会裁判所、労働裁判所と専門分野で分化している例を引き、日本でもそうすべきだが裁判官の数が少ないと説く。

《日本の裁判官の数はドイツの一○分の一ですから、裁判所を専門別に分けるというのは日本では不可能でしょう。(中略)地方都市、例えば鳥取だと七人しか裁判官はいません》

 原田氏にしても泉氏にしても、本の出版は裁判官を退官後のことだ。現役裁判官の肉声を知る機会はないのか。

 そこでお勧めなのが、「白ブリーフ判事」こと東京高裁判事の岡口基一氏だ。岡口氏は08年にツイッターを始めて、今まで1万7000回を越える情報発信をしている。

 岡口氏の名前が一般に有名になったのは、昨年6月、ツイートの内容について東京高裁裁判長から口頭注意処分を受けたことだ。飲み屋で知り合ったSMクラブで働く「女王様」に縄で縛られている写真などを投稿したのをとがめられた。以前から岡口氏は白ブリーフパンツ1枚になっている自分の写真を投稿したり、「当局」から目をつけられていたらしい。処分を受けたことを黙っておけばいいものの、自らまたツイッターでそれを報告し、マスコミネタになった。怒られてもアカウントを閉じることなく、今もユニークな投稿を続けているのも根性がある。自分を注意した高裁長官が最高裁判事に任命されたときは、

《白ブリーフ判事に厳重口頭注意処分をしたことで一躍有名になった戸倉三郎裁判官が、最高裁判事に》

 とツイートして爆笑を誘った。最高裁判事になるような偉い人に怒られた経験を持つ人はなかなかいないと思う。しかもいい大人になって。

 事件から岡口氏をフォローした人にとってはおちゃらけた人という印象しか抱かないかも知れないが、それは彼の一面に過ぎないと思う。岡口氏は改正民法の重要な変更点についてツイートしたり、地方のユニークな判決を紹介するツイートもしている。ちゃんとしたプロの法律家として、国民に情報を提供してくれいる。

 そしてなりよりも私が岡口氏のことを頼もしく思うのは、彼がツイッターを通して裁判官の市民的自由について考え続けていることだ。己の市民的自由について考えるからこそ、国民の市民的自由とはなにか、思いを深くすることができる。飲み屋で縛られた写真を投稿したところで、裁判官に求められる公平性は毀損しない。原田氏の例でいうと、岡口氏は白ブリーフ姿を公開しても、出された紅茶は飲まないだろう。

「岡口さんは弁護士になっても食っていける」という人もいるが、私は裁判官の職に長く止まって、できれば最高裁判事になってほしいと本気で願っている。

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