極めつきは1900(明治33)年、念願の渡米を控えた際の騒動だ。放蕩三昧で一文無しの英世は、箱根の温泉地で知り合った資産家の姪・斉藤ます子との婚約を機に手付金三百円を借り受けて留学費用とした。
ところが渡米を前にしたある日、英世は検疫所の同僚と横浜一の遊廓「神風楼」でドンチャン騒ぎして、留学費用を一晩で使い果たした。大金を手にして気が大きくなり、芸者衆に有り金をばらまいたのだった。
この時も英世は血脇に泣きつく。血脇は頭を抱えながら、生まれて初めて高利貸しから三百円を借用して英世の留学費を用立てた。渡米した英世はその後、人類を難病から救うスーパースターになる。ちなみにます子との婚約は破談になったが、手付金三百円を返金したのも血脇だった。
そうしてみると、千円札の肖像として相応しかったのは血脇かもしれない。
【PROFILE】星亮一/1935年、宮城県生まれ。東北大学文学部卒。先祖のルーツである福島で新聞社、テレビ局を経て独立し作家に。著書に『野口英世 波乱の生涯』(三修社)、『明治維新というクーデター』(イースト・プレス)、『信長の狂気』(文芸社)など。
※SAPIO2017年4月号