ノンフィクションライターの井上理津子さんがレポートする最新お墓事情。今回訪ねた「動かないお墓」は、ブランドショップが並び、おしゃれな人たちが行き交う東京・青山。その一角に佇む4階建ての実相寺は1634年創建の臨済宗のお寺だが、堂内「青山霊廟」に「特別壇」と称する、なんと600万円の仏壇型のお墓があった――。
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取材時、お参りに来ていた楠本敏夫さん(60才、仮名=会社員)は、3年前に父が他界した後、家族壇を買った。もともとは都内の別のお寺の檀家で、お墓もあったが、「お葬式の時に都合が悪いとかで、見ず知らずのお坊さんを派遣され、お寺と派遣のお坊さんの両方に高額のお布施を払わされた」ために離檀に踏み切り、知人に紹介されたここを「とても気に入った」と言う。
「元のお墓は相当古びてましたので、メンテナンスに費用をかけることを思えば、300万円は高くなかった。ここは、今後のメンテナンスがいらないし、清潔だし、いい不動産を買えたような感覚です」
特別壇、家族壇の他に、ロッカー型の32cm×33cm×52cmの「夫婦壇」が100万~160万円(使用期間による)、奥行きがその半分の「個人壇」が50万~90万円(同)。
それらも、少しなら写真など故人ゆかりのグッズを入れられるものの、大きさから考えると決して安くはない。とはいえ、青山霊廟の販売を担当するせいざん株式会社社長の岩田貴智さんに「お父様を亡くし、個人壇を求められた娘さんが、お参りに来るたびにお骨を抱きしめられている」「40代の奥さんが亡くなって、夫婦壇を求められ、中に、生前の写真をそれはそれはたくさんの枚数を入れているかたもいる」と聞き、はっとする。こうした行為は、外墓や自動搬送式では無理で、室内の「動かないお墓」だからこそできる、と。
さらに、遺骨の一部を小さな壺に入れて安置する、位牌の形をした「位牌壇」(使用期間により24万~48万円)もあり、「故人は散骨を希望したが、手を合わせる場所が欲しい」と求める向きが少なからずいるとも聞いた。形式によらず、お墓は弔いの拠りどころであると、今さらだが強く思った。
※女性セブン2017年5月4日号