そこはお墓でありながら、墓石も写真もない。あるのは雄大な自然と、年々育つ樹木だけ…。昨今、「室内墓」とともに新しい埋葬の形として「樹木葬」が大きな注目を集めている。しかし、その内容はさまざまなことをご存じだろうか。ノンフィクションライターの井上理津子氏が「樹木葬」に迫った。
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樹木の足下に遺骨を埋葬する。「樹木葬」から思い描くのは、やがて土に還ることだろうか。あるいは、美しい花が咲く庭に眠ることを想像する向きもいるかもしれない。
「樹木葬ってどう思う?」と、知人ら25人に聞くと、概ね「いいんじゃない」との反応だ。「自分は選ばないだろうけど、選ぶ人の気持ちはわかる」と消極的賛成派が多かったが、積極的賛成派も4人いて、その人たちは言う。
「山歩きを趣味にしてきた。緑の中にいるのがいちばん気持ちいいから、死後の“住処”は草木に囲まれたい」(60代、女性)
「死んだら自然に帰りたい。海に散骨して跡形がまったくなくなるのは寂しいので、間をとって樹木葬」(70代、男性)
「母の納骨のとき、お墓に古い汚れた骨壷が入っているのを見て、ゾッとした。木に生まれ変われる感じなのがいい」(50代、女性)
「安そう。管理も楽そう。子供に負担をかけなくて済みそうなので、選びたい」(60代、女性)
お墓相談の第三者機関「『いいお墓』お客様センター」(東京都中央区)のアドバイザー、田中哲平さんは樹木葬をこう説明する。
「広義には、樹木を墓標にするお墓のことですが、家族葬と同じでイメージが先行して人気が出ています。少人数で葬儀を執り行う家族葬が何かよくわからないまま『なんだか、あたたかそう』と選ぶ人が増えましたが、樹木葬も『なんだか、自然っぽい』というイメージでしょう。定義付けのないまま、さまざまな形態に広がってきました」
樹木葬は大きく3タイプに分類できるという。
・里山タイプ=自然保全を目的に、山林などに樹木を植えて墓標とし、その下に納骨する等
・公園タイプ=都市郊外の霊園などに、芝生状の一画を設け、1本~数本の「シンボルツリー」を植え、その周辺に納骨する等
・庭園タイプ=都市部の限られたスペースに、シンボルツリーや花木を植えてガーデニング風の雰囲気にし、区画の下に納骨する等
「遺骨の埋葬方法は、土中に穴を掘って直接、または布の袋に入れてというところのほか、一定期間は骨壷で納め、その後に合葬するところも出てきています。故人の名前を記すプレートの有無、墓誌(墓石に刻む文字)の記し方、手を合わせる方向などを加味して細分すると、ひとくちに樹木葬と言っても100種以上にのぼっています」(田中さん)
もっとも、いずれももちろん墓地埋葬法(墓地埋葬等に関する法律)に則った墓地だ。これまで紹介してきた最近の「室内墓」と同様、宗教に縛られないところがほとんどで、継承者がいなくても契約できる。イメージの良さに加えて、比較的安価なのも人気の理由だそうだ(岩手県一関市・祥雲寺の場合は契約料50万円)。
※女性セブン2017年6月8日号