「檀家の若い仲間たちと一緒に、手作業で藪を切り拓き、間伐した翌年、花の群落が現れた」「より広域に保全するため、近隣の農家の所有地の自然再生も引き受けている」「全体を『久保川イーハトーブ世界』と名付けた。2015年の環境省『重要里地里山』に選ばれた」などなど、里山の自然再生の話は尽きないが、さて、樹木葬に話の舵を戻し、「遠くて、お参りに行けないという声は聞きませんか」と聞いた。
「いえ、特に」と千坂さん。「承継者がいない場合は別ですが、夏の盂蘭盆供養会や秋の合同供養会には100人近く来られますし、個別のお参りも多いほうだと思います。お参りに来るたび、泊まり込みで畑仕事をして行かれるかたもおられます」
13年前に亡くなった夫が樹木葬墓地に眠る浅井良子さん(74才、東京都日野市)もその1人だ。なんと年に10回、お参りに来ている。
「というか、草刈りのボランティアをさせていただきに来て、ウラジロヨウラクに挨拶に行くという感じかしら」
ウラジロヨウラクとは、5月末から薄ピンクの花が咲く、夫のお墓の墓標木だ。
「會津八一(あいづやいち)の詩に出てきて、知っていた木だったので、選びました」
9か月闘病した夫は、入院先の仲間から、知勝院の樹木葬の情報を得て、「ここにしてくれ」と言い残して亡くなったそうだ。夫婦とも、東北にはそれまで縁もゆかりもなかったが、浅井さんは初めて納骨に来たとき「柔らかい色合いの風景に魅せられた」と言う。合同供養や、知勝院が開く座禅などの研修に参加し、千坂さんの話を聞くうち、生態系の再生に興味がわいた。草刈りは生まれて初めて。「太陽を浴びて、草の匂いを嗅いで…。ものすごく楽しい時間です」。知勝院の宿泊施設に、数日、泊まり込んで草刈り作業することもある。
「転勤族だったせいか、一関を遠いとは全然思わないんです。体力と、交通費を出せる状態が続く限り、伺い続けますよ」
知勝院には、浅井さんのように高い頻度で訪れてはボランティアをもする人たちが50人以上いるという。
※女性セブン2017年6月8日号