「経営陣はこのままなし崩しに経営統合を進めれば、最後は創業家も納得せざるを得ないと踏んでいるのでしょうが、そこは短期的な業績さえ残せば自分の責任はないという“サラリーマン経営者”と、10年、20年先と長期的な企業の姿を描いている創業家の発想の違い。それが意見の対立を生んだ大きな原因です。
こうしたことが起きる背景には、コーポレートガバンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)を偏重する社会の風潮も関係していると思います。
実際には、東芝のように不正会計を働いた会社が平然と導入するケースや、同族経営を否定するためにコーポレートガバナンスを引き合いに出して乗っ取りを仕掛けるケースなど、本来の目的にかなった活用がされていないことも多いのに、形式ばかりが広まっています。
そのため、大手同族企業でも創業者一族への求心力は失われ、単なる大株主の一人として扱われるようになったのが昨今の状況です。出光の経営陣もまた、創業者一族は、投資ファンドのような『モノ言う株主』の一人ぐらいにしか見ていないのかもしれません」(松崎氏)
とはいえ、出光の創業家が合併に拒否権を発動できる3分の1以上の株式を保有しているのは事実。会社側は創業家の影響力を希薄化させる増資や、昭和シェルに対するTOB(株式公開買い付け)など“奥の手”を仕掛ける方法は残されているが、このまま創業家との溝が埋まらないままでは、歴史ある名門企業のイメージは地に堕ちる。
これ以上、醜い争いを起こさず決着させる方法はあるのか。
「粘り強く誠意を持って対話するしかないでしょう。こちらが過半数さえ握ってしまえば、どんなに大株主が騒いでも犬の遠吠えに過ぎない──などと経営陣が考え、無駄な説得を避ける方針を取れば、問題はよけいにこじれて会社は決して良い方向には進みません」(前出・松崎氏)
創業以来、社員をもっとも大事にする“大家族経営”を貫き発展してきた出光興産。その会社がお家騒動で揺れているのは皮肉な話だが、経営環境が目まぐるしく変わる今だからこそ、創業の精神を思い返してみる必要はあるだろう。