「結局俺らはカモだったんすね。いきなり40万ではここまで、と彫ってくれなくなった。完成させたいなら、あと100万はかかると。そんな金ないっすから、口論して店を飛び出しました」
悲劇はそれだけではない。中途半端に掘られた刺青が滲み出してきたのはその一週間後。焼けるような痛みはひどくなる一方で、皮がむけ出したかと思うと、肩から胸にかけての皮膚がただれた。痛みとともに高熱にも苦しめられたタツヤはある晩、ついに耐えきれなくなり救急車を呼んだのだった。
「施術がめちゃくちゃで、彫った部分から雑菌が入りショック状態になっちゃったんです。あのクソ彫り師に言っても取り合ってくれず、警察に言ってもダメ。もうほんと、最悪でした」
タツヤの右胸はやけど痕のような状態で、肩から腕にかけてはマジックが滲んだような線がいびつに残る。結局、思慮の浅い客の自業自得にも思えるが、前出のM氏は危機感を募らせる。
「和彫りブームで増えたインチキ彫り師達は、衛生観念も非常に低く、連中が施した彫り物のせいで肝炎などの病気になる人が続出しました。インチキ彫り師の施術を”修正してくれ”とやってくる客には、病院で検査するよう勧めています。さらにはニワカ彫り師達が、タトゥーマシンなどの刺青道具を若い子達に高値で販売したりして、中学生同士で彫り物をしていたなんてこともあります」
刺青やタトゥーを巡っての議論が繰り返される中、日本においてもその存在が前ほど”異端”ではなくなってきたかに思えるが、「若気の至り」では済まされない現実があることも知っておいて損はないはずだ。