ライフ

【書評】なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか

【書評】『蔵書一代 なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか』/紀田順一郎・著/松籟社/1800円+税

【評者】平山周吉(雑文家)

 本好きにとって、涙なしには読めない本である。最初に涙し、最後も涙でにじむ。身につまされるエピソードばかりで、やるせなくなる。

『蔵書一代』の意気込みで、著者の紀田順一郎が十歳から七十年をかけて買い集めた本は三万冊を超えた。食費を削り、家具を買い控え、本に理解のある夫人にも恵まれた。横浜の郊外に建てた鉄筋二階建ての家は本で埋まり、還暦を過ぎては、岡山に快適な書斎住宅を建て、セカンド・ハウスとした。

 専門の怪奇幻想文学やミステリーから辞書、叢書類まで、集めた本をもとに数々のユニークな著書が生まれた。順風満帆、温雅芳醇な羨ましい限りの読書人生、と傍目には見えていた。

 本書で報告されるのは、その残酷なる総決算である。蔵書はわずか六百冊のみを手もとに置くことが許され、あとはすべて処分された。蔵書との永遠の別離は愁嘆場である。蔵書を「血祭りにあげた」などと強がってはみたものの、本を見送った後、紀田は道路にグニャリと倒れ込んでしまう。

「蔵書一代」の一巻の終わりは、夫人の骨折事故から始まった。夫人はかつて「あなたが死んでも、この本をあなたと思って、守っていてあげるからね」と口にしたことがあった。蔵書家にとって申し分この上ない妻が、大変貌を遂げて、蔵書への死刑宣告を下す。本が頭上に落ちて死んでも本望だという夫に対し、「私は本なんかと心中するつもりはありません。一人でも施設に行きます」と、「終活」三下り半である。夫としては従わざるを得ない。

関連記事

トピックス

不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《スクショがない…》田中圭と永野芽郁、不倫の“決定的証拠”となるはずのLINE画像が公開されない理由
NEWSポストセブン
多忙の中、子育てに向き合っている城島
《幸せ姿》TOKIO城島茂(54)が街中で見せたリーダーでも社長でもない“パパとしての顔”と、自宅で「嫁」「姑」と立ち向かう“困難”
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
女性アイドルグループ・道玄坂69
女性アイドルグループ「道玄坂69」がメンバーの性被害を告発 “薬物のようなものを使用”加害者とされる有名ナンパ師が反論
NEWSポストセブン
遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《ヤクザの“ドン”の葬儀》六代目山口組・司忍組長や「分裂抗争キーマン」ら大物ヤクザが稲川会・清田総裁の弔問に…「暴対法下の組葬のリアル」
NEWSポストセブン
1970~1990年代にかけてワイドショーで活躍した東海林さんは、御年90歳
《主人じゃなかったら“リポーターの東海林のり子”はいなかった》7年前に看取った夫「定年後に患ったアルコール依存症の闘病生活」子どものお弁当作りや家事を支えてくれて
NEWSポストセブン
テンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《キョンシーブーム『幽幻道士』美少女子役テンテンの現在》7歳で挑んだ「チビクロとのキスシーン」の本音、キョンシーの“棺”が寝床だった過酷撮影
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン