人生や仕事の様々な重要局面では「文書で残す」が基本となる。ならば、手が不自由になった父が、遺言を映像で残したいと主張した場合、これは認められるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
父が脳梗塞で倒れ、首から下に麻痺が残りました。問題なのは父が遺言状を作り直したいと願っていて、それも手足が不自由なため、映像に残した遺言を作成したいと主張していることです。しかし、遺言は書面でしか認められないと聞いたことがあり、それでも父のような病状の場合、作成できますか。
【回答】
映像での遺言は、迫力があります。映像を見た相続人が故人の遺志を尊重し、これに従った遺産分割をすることもありえます。しかし、それはあくまで相続人同士の協議による分割です。もし、遺志に従わない相続人がいて、協議ができなければ映像による遺言は法的効力がありません。
法的効力を有する遺言は、文書でする必要があります。遺言書を自分で書く場合は、全文自筆で書く自筆証書遺言が普通です。ただし、手が動かなければ不可能です。この点を心配しておられますが、書けなくても遺言は作成できます。
字が書けない場合、公証人に作成を委嘱してする、公正証書による遺言ができます。公正証書遺言は、遺言者が証人2名の立会いの上、公証人に対し、遺言の趣旨を口頭で伝え(口授)、公証人に公正証書に筆記してもらう方法で作成されます。