国内

作家・深町秋生氏 「全員死刑」の連続殺人事件を分析

大牟田事件の初公判(写真:時事通信フォト)

 神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件で、殺人犯の心理に注目が集まっている。そんな中で刊行されたノンフィクション事件ルポ『全員死刑』(鈴木智彦・著/小学館文庫)が、この11月に映画化されることもあり、話題を呼んでいる。2004年に福岡県大牟田市で起きた4人連続殺害事件で、暴力団組長の父、母、兄とともに逮捕され全員死刑判決となった一家の次男・北村孝紘死刑囚による犯行手記だ。文庫解説を務めた作家の深町秋生氏は、当時の事件を以下のように分析する。

 * * *
 この凄惨な事件は、まず兄の孝と孝紘が両親に内緒で、貸金業者の高見小夜子さん宅に押し入り、まだ十五歳の小夜子さんの次男を殺害。貴金属入りの金庫を奪うところから始まる。

 兄弟ふたりは貴金属を質屋で勝手に換金。父母にバレぬようにあれこれ芝居を打ったり、とぼけてみせるのだから、組の仕事どころか裏切り行為だ。

 この手記のなかでは、殺人に対して快感すら覚えたと告白してもいるが、けっきょくは覚せい剤の力を借りるなど、自分のハートの弱さを自覚していない。

 殺しをそそのかした兄に対し、口を極めて罵っているが、犯行中はさんざん命令され、コケにされ、手を汚すように操縦されているにもかかわらず、孝紘は最後まで逆らわない。著者(鈴木智彦氏)が指摘するように、弱い者には噛みつくが、強い相手には噛みつかない。よく飼い慣らされた犬なのだ。

 弱く愚かしいのは、なにも孝紘だけではない。暴力団関係者には穏和で優しい性格だとの評価を受けていた父の實雄は、身内には容赦がなく、若い衆はなかなか居つかず、組の財政は火の車だ。小夜子さん一家の殺害は、あくまで大金強奪が目的だったにもかかわらず、常人には考えられぬほど場当たり的である。

 被害者のバッグに入っていた二十六万円の現金にはしゃぐ母。巧みに弟を操縦しながらも、肝心なところで抜け目なく身をかわし、一家とは無関係のごとく装うなど、猿知恵を働かせる長男。人間とはいかに哀しい存在であるかを突きつけられる。

※鈴木智彦・著/『全員死刑』より

関連キーワード

関連記事

トピックス

森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
どんな演技も積極的にこなす吉高由里子
吉高由里子、魅惑的なシーンが多い『光る君へ』も気合十分 クランクアップ後に結婚か、その後“長いお休み”へ
女性セブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
『教場』では木村拓哉から演技指導を受けた堀田真由
【日曜劇場に出演中】堀田真由、『教場』では木村拓哉から細かい演技指導を受ける 珍しい光景にスタッフは驚き
週刊ポスト