『替り目』は、酔っぱらって帰って来た亭主の駄々っ子ぶりが昇太らしく、夫婦の会話が全編爆笑モノ。
さんざん威張っていた亭主、女房がおでんを買いに行くとしみじみ「ホントは感謝してるんだよ……お前がいなきゃ俺はダメなんだ」と独白、実は女房まだそこにいて「なんだよ、まだ行かなかったのか!」ここで高座を降りる演者が多い噺だが、昇太は「早く行けよ! なにニヤニヤしてるんだよ……小さく手なんか振らなくていいんだよ!」というオリジナルの台詞で爆笑を呼んで後半へ。この「小さく手なんか…」という台詞が言いたいので、途中で切らずにサゲまでやるのだという。
『二番煎じ』はよくやる噺でお手のもの。猪鍋を囲むワイワイガヤガヤの楽しさもさることながら、役人が見回りに来てからがこんなに可笑しいのは昇太だけだ。
『死神』は冒頭で主人公が何気なく呟いた一言がサゲの伏線になっているという絶妙な展開に舌を巻いた。昇太考案のサゲは陰惨な噺が似合わない彼らしい素敵なもの。最初に登場したときの死神の「お前、俺が見えるのか……?」という台詞も、この噺に孕む矛盾を解決しつつエンディングを補強するスマートな演出だ。
でも何より、呪文を唱えられて「アァ~」と叫びながら消えていく死神の姿がとんでもなく可愛い! この消え方の可愛さこそが昇太版『死神』のキモ。まさか「消えていく死神」に笑わされるとは思わなかった。さすがは昇太、やってくれる!
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2017年12月22日号