ある戦場のケースだが、425万発に及ぶ味方の砲撃が地面を掘り返し、そこに8月の雨がたまって泥沼化していたところへ、10月の大雨で塹壕が水浸しになった。当戦場の公式記録の死者24万5000人、最終段階での戦死者の4人に1人は溺死者だった。それでも司令官は戦闘続行を命じ続けた。
あるアメリカ詩人の定義によると、平和とは「どこかで進行している戦争を知らずにいられる、つかの間の優雅な無知」だそうだ。戦後日本の平和は70年続いた。いまや「優雅な無知」の底が割れかけている。気がつくと、徹底して知性の欠如した大国の指導者に数字を示され、せっせと奉仕しているのではなかろうか。
※週刊ポスト2018年1月1・5日号