私は、その基盤を整えようとしているに過ぎない。チェコ人が私を支持するのは、日本の血が流れていることも大きいだろう。この国で、アジアで一番尊敬されるのが日本である。真面目で勤勉で、とにかくよく働くからだ。
私の日本名は岡村富夫という。1972年7月4日、東京都板橋区高島平の団地で次男坊として生まれた。父は日本人で、故母はチェコ人。日本で5歳まで育ち、その後、家庭の事情でチェコに渡った。チェコの施設では孤児として生活した経験もある。幼児期のトラウマからか、14歳になってもおねしょが治らなかった。
チェコ社会に馴染めず、大学は中退。故郷で経験を積もうと、数年間、東京でアルバイトをしたこともある。日比谷の映画館で、ポップコーンとコーラを売りながら、町田で5畳のアパートを借りて生活した。月7万円の貯金を自分に課し、いつか成功することを夢見ずにはいられなかった。
だが、そこにも私の居場所はなく、「変なガイジン」と呼ばれたものだった。再びチェコに戻り、日本語教室やツアーガイドを始めた。寝る時間を割いて働き、家も車も飲食店も手に入れた。旅行業界団体のスポークスマンになった私は、本も書いた。次第にメディアから注目されるようになった。
その後、政治家になったのは、チェコ人の絶大な支援を受けたからである。だから私は彼らの信頼に応えたいと思っている。
私には大統領になりたいという野心はない。今はチェコ人のための政策を一歩一歩進めるだけである。EUの政治家は私を非難し、今後私たちへの大規模なデモも予定されているようだ。私には彼らこそ、排外主義者に思える。幼少期を思えば、怖いものは何もないが。
【PROFILE】トミオ・オカムラ(日本名:岡村富夫)/チェコの第三党「自由と直接民主主義」(SPD)党首。1972年、東京生まれ。5歳でチェコに移住。18歳で日本に渡るも、3年半でチェコに帰国。その後、日本語教室や日本人観光客向けのガイドで成功。2012年に無所属で上院議員選挙に当選。2015年にSPD創設。
●取材・構成/宮下洋一(ジャーナリスト)
※SAPIO2018年1・2月号