それでも威圧感をあまり感じないのは、大抵の大型高層ビルがスクエアな箱型なのに対し、ミッドタウン日比谷は“曲線美”を意識した外観デザインになっているから。三井不動産では、「丸の内のイメージが男性だとすれば、日比谷は宝塚や日生劇場などがある、女性の柔らかいイメージの街。さらに、かつて社交場の鹿鳴館があった歴史を踏まえ、男女がダンスをしている姿を着想し、デザインコンセプトを“ダンシングタワー”にした」と言う。
同社は多くの商業テナントが入り、都心では最大級のシネマコンプレックスも入居、オフィスフロアでは大手企業の旭化成の本社移転が決まっているミッドタウン日比谷に、大丸有(大手町、丸の内、有楽町の総称)エリアも含めた、大きな人の回遊性の実現をもくろんでいる。その理由は、これまでの日比谷は周辺エリアと“分断”されていたことにもあった。
大丸有エリアとは晴海通りで分断され、銀座とはJRの高架で分断。眼前の日比谷公園も日比谷通りで分断といった具合だ。回遊性を考えると、日比谷はこうした周辺エリアとの連続性の薄さが弱点だったのである。映画や演劇に代表される日比谷という街の独自性を強めつつ、周辺エリアからの導線、相互送客性も高めることが課題だった。
もう1点、三井不動産という企業単位で見ると、隣りの銀座エリアでも交殉ビル、ギンザコマツビル、銀座並木通りビル、柳通りビルなど都心型の商業施設を数多く運営し、昨年は、かつて銀座日航ホテルがあった土地で、グループのホテル会社が賃借し、ホテル運営を行ってはいる。
だが、三井不動産は業界最大手であることを考えると、物足りなさ感が残ってしまう。実際、ここ1、2年は同じ銀座で、旧銀座東芝ビル跡地に「東急プラザ銀座」を開業させた東急不動産、旧銀座松坂屋跡地に建つ「GINZA SIX」でコーディネート役を担った森ビルに比べ、話題性で劣後してきた。
そこへ今回のミッドタウン日比谷の完成で、銀座隣接地とはいえ、ようやく三井不動産の存在感を示す時が来たと考えているだろう。旧防衛庁跡地に「東京ミッドタウン赤坂」が竣工したのが10年強前の2007年。2003年に先行して開業した、森ビルが手がける六本木ヒルズとの相乗効果を発揮したように、ミッドタウン日比谷も銀座エリアを巻き込んだ集客を狙う。
だが、三井不動産の日比谷における野心は、中長期的に見ればミッドタウン日比谷にとどまらない。日本橋と同じような面展開も視野に入れての再開発だからだ。