『あたし おかあさんだから』――こんなタイトルの歌が物議を醸している。この歌は、絵本作家の「のぶみ」さんが作詞で、NHK『おかあさんといっしょ』で11代目うたのおにいさんを務めた横山だいすけが歌うもの。
この歌がネットの動画サイトで配信されるやいなや、「母親にがまんや自己犠牲を強いている」「子供にはとても聞かせられない」「なぜ父親が登場しないの」という批判が殺到した。
母として、女として、さまざまな意見が飛び交った『あたし おかあさんだから』騒動。この歌詞が現代女性の心をざわつかせた最大の理由は、“母親の孤独”をあぶり出してしまったから――そう話すのは、夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さんである。
「おしゃれで華やかな母親も、歌詞に出てくる世界を地で行く専業主婦も、ともに子育てが孤独なんです。昔の3世代同居や大家族の時代には、地域社会で子育てを手伝ってもらうのが当たり前だった。でも、今は都会の希薄な人間関係のもと、一家の中だけで子供を育てようとする。親にけた違いのストレスがかかっているわけです」
2014年にミキハウスが行った調査によれば子育てにおいて孤独を感じたことのある母親は53.2%にものぼった。
「頼る先もなく、ひとりで子育てをする母親たちの姿を、あの歌詞は是とした。だから女性たちから反発が起きたのです。表層ではなく、魂のレベルで現代の女性は孤独です。その痛みに僅かにでも寄り添っていれば、批判も少なかったのではないでしょうか」(池内さん)
母親たちの孤独化が進む一方でファッション誌では「子育て中でもおしゃれなママ」が喧伝され、SNSにはかわいいわが子の写真や子供を預けて夫婦で行った素敵なレストランの写真があふれかえっている。歌人の俵万智さんは、SNSの普及も子育ての孤立化を後押ししていると指摘する。