昨年12月、神奈川県川崎市の商店街で歩いていた妻・晶子さん(享年77)を自転車衝突事故で亡くした米澤茂さん(82才・仮名)。電動自転車を運転していたのは、20才の女子大生で、事故当時、彼女は左手にスマホ、右手に飲み物を持ち、左耳にはイヤホンをした状態だった。
脳挫傷と診断された晶子さんは、延命手術を施すも、ほどなくして息を引き取った。茂さんは、人工呼吸器をつけた妻の血圧が徐々に下がっていく光景を、静かに見ていることしかできなかった。
「『ちょっと行ってきます』、『はい、行っておいで』と。朝、家内を送りだしてね。あれが最後の会話になるなんて、思ってもみなかった。もっと話したいことがたくさんあったのに…」
茂さんが語る。
「最近はハンドルにスマホを取り付けることのできる部品が売られていたり、メーカーも時代を逆行している気がします。ある程度の速度下では操作ができない仕様にしたり、何か機能制限を設けることはできないのでしょうか…。
これだけの事故が起きているにもかかわらず何も規制されないのでは、家内が浮かばれません。このままでは、いつかまた同じ犠牲者が出るような気がしてならないんです」
晶子さんの遺影を眺めながら、茂さんは最後にポツリとつぶやいた。
「家内はね、“私は必ずあなたの最期を看取る。その後で死ぬ”って、よく言っていたんです。それなのに、先に逝ってしまうんだから…。もうこの家にひとりで住んでいる意味もないので、5月から介護施設に入ろうかと」
運命は、どこまで非情なのか──。
※女性セブン2018年3月8日号