◆集団主義では時短が進まず、モチベーションも上がらない
労働政策研究・研修機構が2010年に行った調査で、有給休暇を残す理由について聞いているが、回答(複数回答)をみると「休むと職場の他の人に迷惑をかけるから」(60.2%)、「職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいから」(42.2%)などが上位にあがっている。
また同機構の別の調査によると、残業する理由として「上司や仲間が残業しているので、先に帰りづらいから」と答える人が1割ほどいる。とりわけ女性が働きにくい理由になっていることは明らかだ。
さらに自分がいくら早く仕事をすませても周りに遅い人がいると帰れないので、効率的に仕事を処理しようという意欲も生まれない。
そもそも意欲、モチベーションの大きさは、自分の力で成果や報酬をどれだけ高められるかにかかっている。たとえば一人で仕事をする仕事なら成果も報酬も自分の実力にかかっているが、5人の集団で行う仕事なら5分の1の影響力しかもたない。そのため、高いモチベーションが生まれにくいのである。
ちなみに近年つぎつぎと発表されるワークエンゲージメント(仕事に対する熱意)の国際比較によると、日本人のワークエンゲージメントは世界最低のレベルである。そしてモチベーションやエンゲージメントが低ければ、生産性も上がらないのは当然だ。
◆「未分化」な組織が新しい制度導入の壁に
アメリカでは1990年代あたりから意欲と能力を備えた人が大企業をスピンアウトし、シリコンバレーなどでつぎつぎと自分の会社を立ち上げてきた。それが社会の活力源となり、アメリカ経済をV字回復させた。
一方、集団主義で定年まで働くのが当たり前という日本の企業風土では、それを期待することもできない。社員の副業もなかなか導入が進まないのは、個人の分担があいまいで集団作業が多いことが大きな原因になっている。
さらに、いま議論されている高度プロフェッショナル制度や裁量労働制にしても、仕事や責任の範囲が不明確な日本の組織では自分の仕事を調整できないので、導入すれば「働かされすぎ」になるという懸念は残る。
そして社内に新しい制度を取り入れようとすると、必ずといってよいほど「全社一律」という原則がネックになって改革は頓挫する。このように「働き方改革」にしても「生産性革命」にしても、大きな障害になっているのが工業社会型の「未分化」な組織である。
世界に目を向けると、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)に象徴されるITの進化に乗って、仕事も働き方も急速に変化している。欧米だけではない。台頭著しい中国の沿岸部などでは、企業のなかでも半ば自営業者のように個人でまとまった仕事をこなす人が増えているし、会社をスピンアウトして独立した人が元の会社とアライアンスを組んで仕事をする新しいスタイルも広がってきている。
いつまでも「全社一丸」「絆」といった言葉にとらわれて改革を怠っていたら、日本はますます時代の変化に取り残されていくだろう。日本特有の組織と働き方にメスを入れないかぎり、「働き方改革」も「生産性革命」も成功しない。