安倍政権は、今国会に提出する働き方改革法案での「裁量労働制」の対象拡大を断念した。政府の裁量労働制に関する議論はこれ以上ないほどお粗末だが、多種多様な仕事を一律の仕組みで考えること自体、無理があるという意見も少なくない。経営コンサルタントの大前研一氏は、「タイムレコーダーで計れない仕事こそ、これから最も稼げる仕事」と指摘する。
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一度も企業を経営したことがなく、今のビジネス現場も知らない政治家や官僚が、経営者の頭越しに“上から目線”で従業員の働き方をこと細かく指図する─―安倍政権の「働き方改革」は、その出発点からして間違っている。次々に打ち出されるスローガンを並べてみても、そのちぐはぐさには失笑を禁じ得ない。
そもそも仕事にはブルーカラーとホワイトカラーがあるが、日本企業の場合はブルーカラーの比率が大幅に低くなっている。作業の自動化やロボット化が進んだ上、今や多くのメーカーは外から買ったり外注したりした部品を組み立てているだけだからだ。
一方、ホワイトカラーの仕事には定型業務と非定型業務がある。定型業務とは、データ入力や伝票整理、記帳、請求書作成など作業内容に一定のパターンがあってマニュアル化、外注化が可能な仕事で、世界中どこへ行ってもSOP(Standard Operating Procedure /標準作業手順書)があり、具体的な作業や進行上の手順が一つ一つの作業ごとに決まっている。最も自動化しやすい業務だが、日本企業の生産性は欧米企業の半分ほどなので、今後はAI(人工知能)やロボットに置き換えていかねばならない。そして「残業」というのは、この定型業務にしかなじまない言葉である。こうした仕事では、長時間労働や低賃金を強要するような違法な雇用形態は厳しく取り締まるべきだろう。