国内

記者のセクハラ・パワハラ問題 世代間ギャップはなお歴然

そのニュースは誰にとってのスクープか

 世界的ムーブメントになっているセクハラ被害体験の告白と共有を促す「#MeToo」については、日本でも盛んに報道されてきた。その論調はおおむね、立場を利用したハラスメントは許されないというものだったはずだ。ところが、それらを報じてきた記者が「被害者」として声を上げると、マスコミから発信される言葉の歯切れが突然、悪くなった。ライターの宮添優氏が、記者がセクハラやパワハラを受けながら報じるニュースは、誰にとってのニュースでありスクープなのかを考えた。

 * * *
「セクハラやパワハラの記事を、セクハラやパワハラを受けながら書く……。冗談みたいな話ですがこれが事実です。誰もがテレ朝記者を心の中では称賛している。でも表立って言う人はいない」

 大手新聞社に所属する、都政担当の女性記者・町田由美さん(仮名・二十代)が打ち明ける「セクハラ・パワハラ」の実態は、マスコミの内側、とりわけ大メディアの「ダブルスタンダード」を示している。セクハラ・パワハラが世界的に問題視され、我が国でもやっと認識され問題視されている世論とは真逆をいくものだ。

「警察や省庁の幹部には中年男性が多いので、気を許してもらいやすいだろうと若い記者が担当になります。とくに、大学を出たての一年生記者に女性がいたら、たいてい番記者になります。とくにテレビ局は露骨にそういう選別が行われています。そして、取材対象者の要請があれば、深夜だろうが休日だろうが呼び出される。出かけてみるとただの酒席で、テレ朝記者のようなセクハラを浴びることも、よくあります」

 町田さん自身も、記者一年生時代には某省庁幹部の「番記者」を拝命し、朝から晩まで、幹部の行く先々に同行し続けた。セクハラ的な言動は日常茶飯事だったが、それを上司に相談したことだって、一度や二度ではなかった。しかし……。

「上司からは“それくらいに耐えられなくて記者失格”と訴えを退けられました。セクハラを受けようが、それに耐えてネタを取ってこいと。それができないなら(閑職である)くらし担当、芸能担当にでも異動しろ、というわけです」

 セクハラ被害を、パワハラを用いて封じるという歪んだ話だが、こうした上司は、どんなところにも存在するし、今なお、そうした感覚が抜けていない人が少なくない。そして、常識とかけ離れた考え方に疑いを持っていないため、目的遂行のためにセクハラ被害に遭うことを推奨するかのようなパワハラすら起きている。

「とある記者が、取材対象者と懇意になりすぎているのではないか、対象者の家に通ったりしてネタを取っているのでは、と騒がれたことがありました。私たちは“フェアではない”と感じましたが、上司からすれば、私たちは“負けた”ことになります。お前ももっと食い込め、取材しろ、何なら家に泊まってでもネタを取ってこい、と暴言を吐かれたこともあります」

 上司に言わせれば、これも「一流記者になるための試練」であるのだから、開いた口が塞がらない。昨今、政府が音頭を取る「働き方改革」についても、マスコミは盛んに取り上げているが、当のマスコミ関係者は、パワハラを受けながらもパワハラ問題を取材していると自嘲気味に話す。

「電通社員の過労死問題が起きた時、電通では夜22時までに汐留の本社ビルの電灯を消す、みたいなことをやっていましたよね。実際社員は自宅など会社外で業務を行っていたことが後に明らかになっていますが、我々も、その期間は極端な時間外労働を強いられていました。電通本社前で22時に電灯が消えたのを確認すると、朝5時には電灯が付くのを確認する。日中は関係者取材に奔走し、取材できなければ“取れるまで帰ってこなくていい”などとどやされる。途中で何の取材をしているのか、どんな問題を明らかにしなければならないのか、目的が分からなくなっていたほどです」

 都内のキー局記者がこう話すように、まさにパワハラを受け続けている被害者であるはずの記者が、パワハラ問題やパワハラ被害者を取材する、いびつな事態になっているのだから笑えない。

「一日の睡眠時間が2時間だろうと、休みが一か月間なかろうと、そんなものに耐えられないくらいでは一流の記者にはなれないよと平気で口にする。長時間、働くことは当たり前というのが上司たちの世代の統一見解で、常識なのでしょう。終業時間だろうと“他の社員が働いているのに帰るのか”と普通に言われますし、それでも帰ろうとすると“やる気がない”となる。議論の余地はなく、価値観の押し付けだと感じます」

関連記事

トピックス

中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
愛子さま、初の単独公務は『源氏物語』の特別展 「造詣が深く鋭い質問もありドキっとしました」と担当者も驚き
愛子さま、初の単独公務は『源氏物語』の特別展 「造詣が深く鋭い質問もありドキっとしました」と担当者も驚き
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
報道陣の問いかけには無言を貫いた水原被告(時事通信フォト)
《2021年に悪事が集中》水原一平「大谷翔平が大幅昇給したタイミングで“闇堕ち”」の新疑惑 エンゼルス入団当初から狙っていた「相棒のドル箱口座」
NEWSポストセブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン
稽古まわし姿で土俵に上がる宮城野親方(時事通信フォト)
尾車親方の“電撃退職”で“元横綱・白鵬”宮城野親方の早期復帰が浮上 稽古まわし姿で土俵に立ち続けるその心中は
週刊ポスト
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト