演技の授業は真剣そのもの
授業は1限と2限の2コマ連続。休憩をはさんで3時間の長丁場を、今年75歳になる小野寺教授は最後まで立ちっぱなしでこなした。
「これができるうちはまだ2時間の舞台も大丈夫だ、と自信になります。それに、若い子の前であんまり年寄り臭くはしたくないんですよ。現役の役者として、元気な姿を見せたい」
学生は「殿下」時代の小野寺を知らない。色紙にサインを求める学生に、「おばあちゃんに頼まれました」と言われたこともあった。
「今は舞台の仕事が多いから、学生が僕の演技を見る機会は少ないですね。でも去年、京都劇場でやった『グリーンマイル』という芝居を何人か見てくれたんです。その後の稽古では、みんな驚くほど声がよく出るようになりました。プロの役者としても、学生に刺激を与えられたのは嬉しいですね」
6年前からは、教授職に加えて「学科長」の肩書きもついた。
「演技指導と違って、芝居と関係のない中間管理職業務なので、最初は戸惑いました。でも、芝居もチームワークが大事ですから、役者の常識をベースにやれば何とかなる。その意味では、学生が卒業後にどんな道に進んでも、ここで学んだことは生きるでしょう。プロを目指すのは半分ぐらいで、ふつうに就職する子も多いんです。そういう学生にも社会で役立つ能力を身につけてほしいですね」
教育者となった「殿下」は“刑事時代”と変わらず優しく穏やかなまなざしを学生たちに注いでいた。
●撮影/本誌・小倉雄一郎 ●取材・文/岡田仁志
※週刊ポスト2018年5月25日号