今にも崩れ落ちそうな屋根が近隣を圧迫する、放置されたゴミが腐敗し周囲の環境を侵食するなど、全国で管理されていない空き家が事故や事件を引き起こすなどの問題が同時多発的に報告され始めたのが約十年前。5年に総住宅数における空き家率は13.5%(820万戸)で1988年の9.4%2015年5月には「空家法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)が完全施行された。ところが現実には、なかなか対処が難しい空き家がいまも数多く存在する。ライターの森鷹久氏が、火事のあと放置された家をめぐる問題についてレポートする。
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関東近郊、ベッドタウンとして知られる某市のターミナル駅から歩いて15分ほどの閑静な住宅街。
古く大きな旧家や、この10年以内に建て替えられたであろう小綺麗な戸建てが並ぶ一角に、竹林に囲まれた、まるでお化け屋敷の如き、今にも崩れ落ちそうな廃屋があった。
「あそこは数年前に火事で焼けたんですよ」
こう話すのは、近くに住む元民生委員の女性。かつて高齢の女性が一人で住んでいたという廃屋は、以前は200平米以上の広大な土地に建てられた2階建ての豪邸だった。火事で焼け落ちたのか、その後の風化で崩れ去ったのか定かではないが、今では二階部分は完全に消失し、一階部分の焦げた外壁の隙間から、雨風でドロドロになった家財道具が覗いている。
火災から数年を経ているというのに、強い風が吹くと、灰や粉塵が近隣民家まで飛来し、雨が降れば真っ黒な灰交じりの水が、隣接する民家に流れ込む。晴れた日だって、いまだに焦げ臭いにおいがあたりに漂い、不快感を訴える住人は少なくない。
交通アクセスも良く、付近の地価は緩やかな上昇を続けるというのに、なぜ放置されたままなのか。前述の元民生委員の解説によれば、廃屋の主である高齢女性は、火災で怪我を負い即入院。その後、火災保険で得た金で老人ホームに入居したが、すぐに認知症を発症。身寄りのなかった女性の資産を管理する人はおらず、行政側も手をこまねいているのが実情なのだという。
「以前、女性の遠い親戚を名乗る男性と行政書士の方が訪ねられて、土地の寄付や売買について役所と協議されていたようです。でもそのあとは音沙汰なし。何がどうなっているのか、近隣住人には何もわかりません」(元民生委員の女性)
筆者は廃墟の建つ不動産登記を取得し、女性の親族である中部地方在住の男性・A氏の存在を割り出した。連絡を取ったところ、どうしようもない「現実」を詳らかに語ってくれた。
「あの家は、私のお爺さんの持ち物です。孫である私と、女性の夫である兄(故人)に相続されましたが、もめ事があり登記から私の名前を抜いた。兄とは40年以上連絡を取っておらず、死んだことも件の火災の情報を受けてから初めて知ったほど」