火災の後ほどなくして、女性の戸籍情報を辿った役所から、Aさんの元に連絡が入った。女性の身元引受や火災後のがれきの撤去、さらには火災によって被害を被った近隣住民への保障についてなどの話だったという。
「はっきりって迷惑です。兄弟とはいってももう他人だし、あの土地や建物だって兄一家に盗られたようなもの……。それをいまさら面倒見ろなんて言われてもね……」
しかしながら、朽ち果てた建物には一切価値がないとはいえ、土地そのものにはそれなりの価値が付くはずである。Aさんが瓦礫の撤去費用を負担した上で、土地を売却するなどすれば、それなりのカネが生まれるはずだが……。
「瓦礫の撤去には数百万かかります。また、建ぺい率や容積率の問題から、集合住宅やマンションは立てられない土地。だから、更地にして一軒家を立てる宅地にしかならない。家を建てて、その数百万を上乗せして売りに出したところで、売れる可能性はゼロに近いのです。そもそもその数百万を捻出するだけの余力もなく、こんな老人に、銀行だってカネを貸さないでしょう。どうしようもないんです」(Aさん)
かくして放置され続ける廃屋だが、近隣住人にとって「悩みの種」であることは前述した通り。最近ではさらに、その「被害」が拡大しているともいう。
「ホームレスが住み着いたり、若者が深夜にたむろし、酒を飲んで奇声を上げています。お化け屋敷などと言って肝試しに来る人々もいたりして、穏やかな住宅街の治安が脅かされる事態です」
超高齢化社会の日本では、核家族化による独居老人の数が増え続けており、野村総合研究所の調べによれば2033年には、全国の空家率が30パーセントを越すとされている。もちろんその中の少なくない不動産が、このような「手の付けようがない」物件であることも、想像に難くない。廃屋の近隣住民が訴える。
「もちろん不動産の所有権などありますから、行政が勝手に口を出せないのはわかります。でも高齢化社会で、似たような物件が増え続けるのは火を見るよりも明らか。時代や実態に沿った法律ができないものでしょうか」
日本国民の超高齢化や少子化、そして国民人口の減少によってすでに「家余り」の実態が如実に表れている昨今、政府も行政も、これまでの価値観とは全く違った方法で、問題解決に向けた法整備を進めなければならない。