以前に「手術に関し発生しうるべき損害賠償請求権を予め放棄する」との誓約書を差し入れた患者が医師の過失で死亡した事件で、大阪高裁は「医師の診療義務違反による債務不履行責任に対する控訴人らの請求権まで放棄する趣旨のものとは認められない」と判断しました。つまり、事故が起きても、本件同意書で訴えられないかというと、そんなことはありません。病院側に過失があれば、裁判はできます。
同意書を拒否した場合の対応ですが、医師は正当な事由がない限りは診療する義務があります。当該手術以外に治療法がないとすれば、同意書の有無に拘わらず、病院は手術を拒否できないでしょう。ただし、他の代替治療法がある場合や不可避の危険を伴う試験的な手術では、患者との信頼関係が築けないという理由で、拒否するかもしれません。
【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2018年6月8日号