◆大企業のほうが「トク」な時代は終わる?
しかし、ここへきて風向きが少しずつ変化している。大企業のなかにも経営不振で破綻寸前にまで追い込まれる企業が目立つようになり、IT化と超低金利に直面する大手都市銀行は利益の減少で採用を手控えている。無条件に大企業のほうが「トク」だとは言い切れなくなってきたのだ。
他の主要国と比較したわが国の国際的地位は、1990年代に急落し、その後も回復の兆しが見られない。たとえば労働生産性は1990年の16位から1990年代の終わりにかけて順位が下がり、ずっと22位あたりで推移している(日本生産性本部資料)。
またイノベーションに関する国際競争力も徐々に低下し、2012年には25位にまで後退している(第2回産業競争力会議資料)。さらに企業の利益率も欧米に比べて著しく低い水準にある。
こうした低落傾向の一因となっているのが人材面における専門性の低さと、起業家精神の欠如に象徴される突出したモチベーションの不足である。
学生たちが仕事内容より企業の規模やブランドで就職先を決め、企業も専門を問わずに配属して短期間でローテーションをくり返している以上、専門性は身につかない。各種の調査によると日本人の仕事に対するエンゲージメント(熱意)は国際的にみて最低水準にあるが、それも「仕事」が空洞化している実態と無関係ではなかろう。高度な専門的知識とイノベーションを必要とする時代だけに、こうした現状はとても深刻である。
◆思い切った政策転換を
けれども大企業にその改革を求めることが困難だとしたら、わが国も将来性のある中小企業への就職や起業の魅力をいっそう高め、優秀な人材をそちらへ誘導していくべきだろう。
政府は「働き方改革」の一環として、これまで雇用労働者に比べて不利だったフリーランスの立場を改善する制度を取り入れようとしている。またインディペンデント・コントラクター(独立請負人)など、フリーランスの人たちが加入する組織やネットワークも広がってきている。
それでもアメリカなどに比べると、政策的な支援は十分でないと指摘されている。たとえばアメリカにはSBIRという制度があり、連邦政府の外部委託研究費の一定割合をスモール・ビジネスのために拠出することを法律で義務づけているという(山口栄一『イノベーションはなぜ途絶えたか』筑摩書房、2016年)。
学生が大企業に入ることばかりを考えて就職活動を行い、かりに入社できても意欲と能力を十分に発揮できていないケースが多いという現状を放置しておけば、企業にとっても社会にとっても明るい未来はない。思い切った政策転換こそ喫緊の課題である。