コロンビアの国歌で盛り上がった会場では、コロンビアサポーターの熱気が一気に増していく。日本の選手にとって、その熱気も「社会的比較」であったはずだ。「社会的比較」を使って競争心ややる気を高めるには、自分より強い立場の相手に目を向けることがポイントだ。
日本の国歌が流れ始めると、会場のテンションが切り替わっていく。日本代表選手らは気持ちを1つに結束を固めるべく肩を組み、厳粛な表情だ。日本の国歌はこういう場合、それまでの雰囲気やテンポを変えて、心を落ち着かせるには効果的だ。日本選手にとっては、雰囲気に飲み込まれることなく、闘志を燃やせるタイミングになったのではないだろうか。
国歌斉唱が終わり、コロンビアの選手らと握手を交わす選手たち。その握手は長友佑都選手に見られたように、力強く上からパシッと手のひらをかぶせるようなアグレッシブな握手が多かった。試合への意気込みはそんな所からも見えてきた。
ピッチに入った時から、日本代表チームは積極的に映った。というのもキックオフ直前、珍しいことが起きたのだ。さあ試合開始というその時、コロンビアのファルカオ選手が両方の人差し指を立てて動かし、長谷部選手にも何かをアピールした。主審に近寄り、両方のゴールを指差してまたもアピールしている。すると主審が人差し指を立てたまま、大きく腕を交差させ、なんと互いの陣地が交代となったのだ。
その状況にいち早く対応したのは、主審の指示から一番遠い所にいたゴールキーパーの川島選手だ。即座に動き、守るべきゴールへと走っていく。それに比べてコロンビアのゴールキーパー、オスピナ選手の反応は遅かった。コロンビアの選手たちも全員が急ぎかけ足で移動、というわけではなかった。その足取りを見ていると、心のどこかに、これまでの経験から負けるはずがない、絶対に勝てるというおごりや自信があったのではと思ってしまう。だが日本の選手たちは誰もが、いち早く自らのポジションへと急ぎ走っていく。勝つのが当然というコロンビアと、なんとしてでも勝ちにいこうという日本、そんな印象だ。「社会的比較」の影響なのか、勝利に対する意欲や執念が大きく異なっていたのだと思う。
試合後の会見で西野監督は「スタートからアグレッシブに」「勝ち切る積極性」と語っていた。監督こそ、「社会的比較」の影響を誰よりも感じていたのだろう。この勝利を「1つ勝っただけ」と、表情を変えることなく語った西野監督。さらなる奇跡を起こすことを日本中が期待している。