近年、原因不明による痛みのメカニズムの解明が進み、痛みの原因として異常な新生血管が関わっていることがわかってきた。この血管は、ごく細く不規則な形で増えるため、血管造影画像ではタバコの煙のように見えるので、「モヤモヤ血管」と呼ばれることもある。痛みを感じている場所は炎症を伴っており、モヤモヤ血管が増える。
人間の身体は血管と神経が同時に増えるという特性があり、新生血管の周囲には必ず無数の神経線維が増殖するため、その場所が過敏になって痛みを引き起こす。これが慢性痛の正体だ。OKUNO CLINIC(東京都港区)の奥野祐次院長に話を聞いた。
「例えば、肩こりの場合は筋肉が固くなっていることが痛みの原因だと思われているかもしれません。しかし、実際は筋肉を包む筋膜の中の体液が出る量よりも、入る量が多くなり、筋肉が腫れて炎症が起こります。結果、炎症の周囲にモヤモヤ血管と神経線維が増殖し、痛みが生じます。若い頃は新生血管が少ないので、マッサージをすると痛みが減りましたが、中高年になると長年の蓄積で新生血管の数も増え、そのせいで痛みが引かなくなります」
こうした慢性痛の原因であるモヤモヤ血管を減少させるために考案されたのが、運動器カテーテル治療だ。手首か大腿部の動脈から直径1ミリの細くて柔らかいカテーテルを挿入し、痛みがある場所まで近づける。血管内部は神経がないので痛みや違和感はない。モヤモヤ血管を確認したら、「イミぺネム・シラスタチン」という抗生物質を注入する。
この粒子が細い血管を塞ぎ、血流が途絶え、やがて血管が死滅、徐々に過敏になっている神経線維も減少していく。この薬剤は正常な血管の中は通り過ぎ、数時間で体外に排出されるので安全性が高い。