肌を突き刺す日差しと、ドライヤーのような熱風。今年の暑さは、比喩的な意味ではなく、「殺人的」だ。
熱中症の死亡者数は連日、増え続けている。7月半ばの3連休初日だった14日、全国で1500人以上が救急搬送され、6人が死亡。17日には愛知県豊田市の小1児童が校外学習で熱中症になって亡くなるという悲劇が起きた。岐阜県多治見市で気温40℃を記録した18日は、全国で約2500人が搬送されて8人が死亡。21日には11人の死者が出た。今年は熱中症による死者が1000人を超えると危惧されている。
7月中旬(19日)までに40℃を超えたのは、2004年以来、14年ぶりのことだ。23日にはついに埼玉・熊谷で国内最高記録となる41.1℃を観測。「夏本番」を9月半ばまでだとすれば、あと2か月もある。私たちの体は耐えきることができるのだろうか──。気象予報会社「ウェザーマップ」会長で、気象予報士の森田正光さんの話。
「今年の暑さは命にかかわります。気象庁のいう『猛暑日』の定義は35℃以上ですが、私は38℃以上になると『獄暑』と呼ぶべきだと考えています。人間の体温より気温が高くなる『獄暑』では、汗をかいても蒸発しづらく、風が吹いても、涼しいと感じるどころか、むしろ“暑い”と感じる状態です。
今から1000年ほど前の平安・鎌倉時代は、現在より平均気温が1~2℃高かったと推測されています。近年はそれ以来の暑さだと考えられる。すなわち1000年に1度の“千年獄暑”と呼ぶにふさわしいでしょう」
18日に最高気温40.7℃を記録した多治見市に住む30代主婦が、その日を振り返る。
「外に出たとたん、買ったばかりのサンダルのゴム底が熱で溶けて剥がれてしまったんです。こんなことは初めてだったのでびっくりしました。子供をプールに連れて行ったら、プールサイドの足元や手すりが熱すぎて子供が大泣き。ほとんどお湯のような温度で、泳ぐどころではありませんでした」
同じく多治見市の30代女性会社員が言う。
「喉が渇いたと思ってコンビニに寄ってドリンクコーナーに行くと、スポーツドリンクが1本も売ってないので驚きました。売り切れだったそうです。品切れの自販機が街のいたるところに。駅前のドラッグストアでは、日焼け止めが売り切れたと聞きました」
これが「40℃の世界」の現実だ。気象予報士の大野治夫さんが続ける。
「気象庁の発表する気温は、直射日光の当たらない芝生の上で、金属の筒の中に空気を送り込み、その温度を計って計測します。つまり、“比較的涼しい場所”の温度です。直射日光を浴びるところではもっと温度が上がり、特にビルの谷間やアスファルトの上での生活になる都市部ではヒートアイランド現象でさらに気温が上がります。東京でも瞬間的に40℃を超えているところはもっとたくさんあるはずです」
◆「6月に梅雨明け」は観測史上初
なぜ今年は規格外の猛暑になったのか。
「今年は関東甲信地方が6月に梅雨明けするという、観測史上初めての年になりました。しかも、梅雨の時期にほとんど雨が降らなかったため、6月からずっと地表に熱が蓄積され続けています。昼間に温められた地面やコンクリートは、夜に冷め切らずに朝を迎え、再び熱せられてさらに温度が高まります。晴れ間が続く限り、昨日より今日、今日より明日の方が暑くなるので、異例の梅雨明けの早さが、要因の1つでしょう。
しかも、上空に目を転じると、東から太平洋高気圧が張り出して日本を覆っている上に、さらに西からのチベット高気圧が覆いかぶさって二段重ねに日本を包んでいる状態です。地上の熱気が高気圧の蓋に跳ね返されて逃げられないから、どんどん熱がこもっていくという悪循環が起きています」(前出・森田さん)
この「殺人猛暑」はいつまで続くのか。前出・大野さんはこんな見方をする。
「観測史上初めて41℃を観測し、10月に入っても35℃以上の猛暑日を記録するほど暑かった2013年と、今年の気圧配置がよく似ています。日本の天候に大きな影響を与える太平洋とインド洋の海水温の状態を見ると、現在のところ、今後も暑さが続く要素が揃っています。少なくとも秋口までは猛暑が続く。つまり、残暑まで暑さに苦しめられる可能性が高いでしょう」
覚悟だけはしておいた方がよさそうだ。
※女性セブン2018年8月9日号