「もう引退……神様が許してくれてないんだと思いました。しかし妻は許してくれなかったのです。入院先へもほとんど見舞いに来ないで、自分でシゴトを始めちゃったんですから……。因果応報でしょうが、悲しくなりました」
ちょうどその頃流行っていたのは、ネット上で「宝くじが当たりました」というDM(ダイレクトメール)やウェブサイトへの誘導を行い金をだまし取る詐欺、さらに情報商材販売によって多額の金を無数の人から巻き上げる、というシゴトだった。妻は、体に自由の利かなくなった宮本さんに代わり、これらのシゴトを始めてしまったのだ。
「嫁さんは今では、情報商材販売系の人脈をずいぶん広く持っているようですね。収入もかなりあるんでしょうけど、俺は詳しく知らない。家に帰っても嫁さんはいないし、どこで生活しているかもわからない。嫁さんがこうなったのも俺のせいでしょう。子供も、嫁さんに言われてなんか変なことをやっているようだけど、俺が何か言える義理もないし……。今考えれば、あの時辞めておけばよかったというタイミングはいくらでもある。すべてを捨ててまっとうになってりゃ、こうして家族まで失うことはなかったと思うとね……。もうどうしようもない」
目に涙を浮かべ話す宮本さんの前で、筆者も思わず同情的になってしまいそうだったが、違う。宮本さんに泣かされ、追い込まれ、命を落とした人もいるだろう。自身に不幸が訪れたことでやっと現実に気が付き、都合よく自分の為だけに後悔している宮本さんに、同情の余地は全くない。自ら選択し続けてきたことでハマってしまった負のスパイラルの中で、宮本さんは生き続けていくほかないのだ。