訪問美容とは、病気やけが、高齢などで美容院まで行けない人のため、自宅や施設、病院まで美容師が出向いてカット、パーマ、カラーリングなどの施術をしてくれるサービスだ。
要介護5だった高齢女性が訪問美容を受けたことにより、要介護2にまで回復するなどの成果を出すなど、その効果に注目が集まっている。
訪問美容を利用すると、たとえば在宅介護中の自宅に、移動式シャンプー台が運ばれる。お湯はタンクからくみ上げてタンクへ排出し、3畳ほどのスペースがあればリビングなどどこでも設置可能だ。
湯浅一也さんは、美容室で技術を磨いた後に、訪問美容のtrip salon un.を開業した。trip salon un.の特長は、さらに持参する鏡を設置し、音楽を流し、希望によりアロマも焚く。
「美容院のようなおしゃれな空間に身を置いて、気分を上げることから始まります。スタイルや髪色をカウンセリングして相談し、施術。音楽は年代に合わせてリストを用意しますが、高齢のかたはジャズや映画音楽のリクエストも多いです。思い出の映画の話も盛り上がります」(湯浅さん)
施術中は、多くの高齢者がとても饒舌になる。おしゃべりも楽しみの1つのようだ。
「介護されているかたは、普段、周囲はほとんど介護者。ぼくらとの会話が新鮮なのでしょう。ちょっとした愚痴やご家族のこと、昔話なども本当に楽しそうに話されます。そして施術が終わったときにはとてもスッキリしたお顔に(笑い)。帰り際に“今日も楽しかったわ”と声をかけていただくことも多くて、嬉しいですね」
施術後、仕上がりチェック、掃除、道具を片づけて終了までカットだけなら約1時間、カット・カラーなら約2時間。
訪問美容は介護保険外サービスなので費用はサロンごとに違うが、施術料+出張料金(対応するエリア中、東京以外は高速代のみかかる)の場合が多い。
訪問美容師は美容師国家資格のみでOKだが、trip salon un.では湯浅さんをはじめ、15人中6人のスタッフが介護職員初任者研修を修了。
寝たきりの状態、独居の親の施術を発注することもできる。2016年の規制緩和で在宅介護者(家族など)の施術も可能になった。
「昔の高齢者の訪問美容は、介護する人が洗いやすく費用負担がかからないよう、“短く切る”というだけのものでした。“きれいになる必要もない”とご本人も思っていたのかもしれません。
でも今、ぼくらが出会うお客様は、“今流行りの髪形にして”“斬新な色に染めてみたい”という注文も多いです。第一印象は髪形で決まるといってもよいので、“欲しい髪形”があるのは、心が外を向いている証拠。この気持ちを大事にしてほしいのです。お得意先の100才のかたに長生きの秘訣を伺うと、欲を持つこと、それを人に伝えることだと。名言でしょ? こんな意気揚々とおしゃれな高齢者をどんどん増やしたいと思っているんです」(湯浅さん)
※女性セブン2018年9月20日号