だが電源が必要なのは搾乳だけではない。搾られた牛乳は搾乳舎内のパイプラインを通ってバルククーラーと言われる冷却貯蔵タンクに送られる。冷却にももちろん電力は必要だ。温かい生乳を1時間以内に10℃以下、2時間以内に4℃以下に冷却し、乳業メーカーの集配を待つ。
しかし今回の地震直後には受け入れ側の乳業工場も苦境に陥っていた。当然である。全道全域が停電したのだ。自家発電で稼働させた工場もあったが、一時的に明治や雪印メグミルクなど生乳の受け入れをストップした大手メーカーの工場も多かった。こうなると酪農家はお手上げである。バルククーラーで冷蔵するといっても、保存日数にも限度がある。そもそも毎日出荷する前提での容量なのだから、出荷しなければすぐ満タンになってしまう
乳房炎を回避するためにも、搾乳は続けなければならない。だが出荷できなければ、貯蔵タンクはあっという間に満タンになる。となればもう廃棄するしかない。今回の地震でも多くの酪農家が生活の糧であるはずの生乳を泣く泣く廃棄していた。
まだある。牛は1日100リットル以上の水を飲む。ポンプで地下水を汲み上げる酪農家も多いが、断水したエリアでは、飲み水が確保できずに死んだ牛もいたという。電源を喪失すること、そして出荷できないということは、かくも酪農家にとって一大事なのだ。
地震から一週間が経過した。電源や出荷体制などは徐々に復旧しつつある。地震直後には北海道内の大手乳業工場の9割以上が稼働を止めたが、10日には道内にある39の工場がすべて操業を再開した。もっともいまだ100%の生産体制ではない上、北海道内向けの出荷や学校給食への供給が優先される。
2年前、北海道を襲った台風により、全国のコンビニの棚からポテトチップが消えた。今回も牛乳の供給が不安定になっている。都市部に暮らしていると実感を得るのは難しいかもしれない。だがたとえ訪れたことがなくても、生産地を襲う天災はテレビの向こうで起きている他人事ではない。選択して買う。誰にでもできる支援がある。