「そもそも『ウルトラマン』がそんなに人気があることを知らなかったんですよ。特別に関心もなくて。ただ、先ほども言いましたようにテレビに出て仕事できることが嬉しかったので、もう夢中でやりました。
一緒に出ている人の中で印象的だったのは、新劇出身の津村鷹志さんです。お父さんが映画評論家で有名だった津村秀夫さんで、その影響があったのでしょうか、台本を見ると役作りについていろいろと書きこんであるんですよ。どう怪獣に向き合っているか、とか。それに比べて、私といえばタロウを子供のように夢中になって楽しんで演じているばかりでしたね。その幼児性がタロウには合っていたのかもしれません」
『ウルトラマンタロウ』と並行して、「木下恵介・人間の歌シリーズ」の『愛よ、いそげ』(TBS)にも出演した。
「四台のカメラを同時に回してワンシーンを撮影するスタジオドラマでした。細かい演技指導があり、長回しのシーンも多いので、いつもプレッシャーを感じていました。
忘れられないのは、手紙を読むシーンです。緊張してしまっているからか、手紙を持つ手の震えが止まらない。『何とか止めなければ』と思えば思うほど、震えてしまうんですね。しばらくトラウマになりました。そんな私に、父親役で出ていた高橋幸治さんが優しく声をかけて下さったんです。
『震えることはちっとも恥ずかしいことじゃない。震えるということは、それだけ君の心が動いているということなんだ。俺だって、時々震えてるよ』と仰って頂いたんです。
その言葉を聞いてからは、不思議と震えることがなくなっていきました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/渡辺利博
※週刊ポスト2018年10月12・19日号