片山:でも杉田本人はまったく無自覚でしょう。
佐藤:そうなんです。資本主義、新自由主義は格差を生み出し、人々をバラバラにしてしまう。それに対抗するには、バラバラになった国民を国家が束ねるしかない。それなのに杉田は、行政が生産性のない人間を支援するのはおかしいと訴えた。現政権が目指す方向性とは逆の主張です。
片山:だから、自民党の仲間の議員たちの杉田擁護も控えめになった。
佐藤:とはいえ、生殖は国家存続、人類の存続にとって非常に重要な問題です。きちんとしたレトリックを用いれば、違った形で受け止められたかもしれない。たとえば「失われる命を少しでも減らす努力をすることも人口を増加させるために考えるべきです」と昨今の児童虐待を絡めて説明すれば、受け止められ方はまったく違ったはず。
片山:仰る通りです。高収入の同性愛のカップルが養子をとって子供に高い投資をしている海外の実例でも紹介すれば、子供の生産性の話を展開できるのに、議論に戦略がなさすぎます。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『「五箇条の誓文」で解く日本史』。
■構成/山川徹、撮影/小倉雄一郎
※SAPIO2018年11・12月号