プライベートでは2人で旅行に行く仲。佐藤さん(左)と安澤さん(右)
――「出版社になる」ことはハードルが高いというイメージがありますが、そのハードルはすぐにクリアできたのでしょうか。
佐藤:おっしゃる通り、「出版社になる」ことは簡単ではないんです。安澤と私はもともとビジネス系出版社の同期なんですが、入社して間もない頃に「出版社を作るには最低でも3000万円は必要だ」という話を聞きました。それがないと本を作れないという意味ではなく、取次会社という販路を得ることができないという意味です。
正直なところ、実際に取次会社と取引を開始するのにいくらかかるのかはわかりません。しかし、一気に全国の書店に送った書籍が一気に戻ってきた時に出版社が倒産しないだけの財力が必要なのはたしかです。また、それに耐えうるための資産を得るために、新刊をどんどん出版する……、そんな自転車操業を余儀なくされている出版社があることもまた現実でした。
安澤:もしかしたら、出版業界以外の人にはこうした話はイメージしにくいかもしれませんね。少し書籍の流通についてご説明します。
ほとんどの書籍は〈出版社→取次会社→書店〉と流通しています。この流れがあったからこそ、全国津々浦々の書店にあらゆる本が届くという構造ができたのです。雑誌が全盛の時代などには、発売日一律に日本のあらゆる書店に雑誌が届くことは非常に重要なことでした。地域の文化の差を埋めるという意味合いも強かったように思います。日本の出版事業は、この仕組みで発展してきたので、取次会社を通さず、直接書店で本を売ることは非常に難しいことだったのです。
しかしながら、2016年のデータですが、出版社の数が約3300社、書店が10500店、それに対して取次会社の数は大きなところが4企業ほどと小規模企業がいくつかある程度です。1年間に出る書籍は7万点~8万点といわれていますから、取次会社が1冊1冊をきちんと吟味して卸していくのは至難の業。そのため、毎日大量の本が機械的に書店に送られて、売れずに、時には段ボールの封も開けられずに、大量の本が戻されるという事態が起こるようになりました。
――書店によって、売れる本は違うはずですよね。一律配本のメリットもありますが、届けたい層にリーチできないという課題も同時に抱えてしまったのですね。出版不況といわれるものの中には、そうした背景もあるのかもしれませんね。
佐藤:そう思います。同じ本をどこでも買えることはたしかに価値があることかもしれません。しかし、書店は立地条件や来客の年齢層などによって、売れる本は違うはずです。本を出版社が直接流通させる方法をとれば、書店を介して読者に届きやすくなると思いました。
◆価値観を揺さぶる本を作りたい