会見や映像から判断する時、怖いのはここだ。先入観にとらわれると、自分の考えや印象に一致するような情報ばかりを探すようになる。集めた情報から自分が正しいと思い込むと、一部の映像や音声だけで起きていた状況を判断してしまう。ここに確証バイアスの“罠”がある。違う情報や反証する情報があるのかどうかを確かめようとしなくなってしまうのだ。
折しも、東京都町田市の都立高校で教師が生徒を殴った動画がSNSで拡散し炎上。教師は謝罪したが、動画は生徒が炎上目的で挑発したものだと判明。挑発した生徒に非難や批判が集中するという騒ぎになったばかりだ。泉氏の場合はどうなのか。暴言は1年半以上も前のもので、4月には市長選が予定されている。このタイミングでの報道に何らかの意図があるのではとの憶測も飛び始めた。
やはり音声には続きがあった。
「2人(担当者)が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ」
暴言を吐いていただけではなかった。そこには理由もあった。問題となった道路では慢性的に渋滞が発生し、事故が多発。死者まで出ていた。そのための拡幅工事で用地買収に時間がかかり、完成予定が大幅に遅れていたという。だからといって、暴言は許されることではない。
一度は辞任を否定し、市長選に出馬して「有権者の判断を仰ぐ」と述べていた泉氏だが、再び会見を開くと「大変無念です」と涙しながらも、「自分への処分は辞職以外ない」と語気を強めて辞任を表明した。当初、苦情や批判が殺到していた明石市には、泉氏を擁護する声が多くなっているという。
音声や映像が衝撃的であればあるほど先入観にとらわれる。切り取られた報道だけを鵜呑みに判断してしまうと、疑問をもたなくなってしまう。今回は続きの音声が流れたが、メディアやネットにそれ以上の情報が出てこなければ、いくら確かめようとしても確かめられない場合もある。今の情報社会の怖いところだ。だからこそ、情報を受ける側も発信する側も、思考を柔軟にしておくことが必要だろう。