発表会会場で筆者も試し履きを試みたが、つま先周辺と踵周辺のクッションの厚みが凄く、足が浮揚しているような感覚に捉われた。が、ソール裏側の土踏まず周辺部分に大きな切れ込みの穴が開いており、そこが緩衝エリアになって、歩いてみるとつま先周辺と踵周辺の浮揚感をうまく吸収している――そんな感覚だった。
商品自体は“厚底シューズ”と呼ばれるタイプで、同様の構造を持つナイキのシューズを履いたトップアスリートたちが、特に昨年以降、驚異的なタイムをたたき出して立て続けに優勝をさらったことが大きな話題になった。
アシックス「METARIDE」の発表会で、同社の執行役員でスポーツ工学研究所長を務める原野健一氏は、「当社の新商品は2番煎じではないかと思われるかもしれないが」と前置きしたうえで、「パフォーマンスの最大化と足の保護、怪我予防の両方のミッションを維持しながら、新しいシューズ体験を提供することができたと自負している」と胸を張っていた。
また、発表会を3月3日開催の東京マラソン直前にぶつけてきたのも、宣伝拡散効果を狙ってのことだろう。実際、東京マラソンのEXPO会場などで「METARIDE」の試し履きや販売も行っている。
アシックスは今年、創業70年の節目でもあったが、同社が一貫してPRする点が技術力の高さだ。いわば“技術オリエンテッド”な企業なのだが、消費者に訴求するマーケティング力やその巧みさという点では、ナイキやアディダスといった世界の巨大メーカーと、まだかなりの開きがあるように映る。
実際、今回の「METARIDE」についてのネット上の声を見ると、
「フィット感や走りやすさは最高だが、黒と赤の色使いのシューズは子供っぽい。ナイキのようにもっとシンプルな色使いを」
「色使いやデザインがイマイチ」
「ランニングのプロだけでなく、もっとライト層も買うデザインにしたほうがいい」
など、カラーリングやデザイン面での不満が散見された。色やデザインの好みは個人差があるので、これらの指摘が最大公約数とは言えないものの、少なくない声としてあるのも事実だ。
また、メーカー希望小売価格が税抜きで2万7000円、税込みなら3万円弱という価格についても、「この値段では、まだまだ手が出ない」「単純に高い」といった庶民感覚の声も聞かれた。
いずれにしても、今回の「METARIDE」が業績回復への足掛かりになったとしても、1商品では限界がある。だからこそ廣田氏も、前述したように「今秋以降、『METARIDE』と同じコンセプトを持った商品をシリーズ展開する」として、ランニング以外のスポーツ分野やウォーキングシューズ、スニーカーなどへの全面横展開を宣言したのだ。
一方、既存のシューズブランドで明暗を分けたのが、好調な「オニツカタイガー」と低調な「アシックスタイガー」の2ブランドだ。