「誘拐や立てこもり事件だよ。人質がいる事件の場合、現場ではこの手とこの手は打っているか、きちっとやっているか、次はどうなっているのかをしっかり確認させて、報告させる」

 これは、人質となっている被害者をケガさせないように、万が一にも殺されないようにするためである。

「ホシが逃げたとしても、ホシが逃げた! 追え、捕まえろ!!ではなく、ホシが逃げたぞ、被害者の無事を確保しろ! 無事が確認できならその次が、ホシを逮捕しろ!だ」

 この手順だけは間違ってはいけない。

 日本人が海外で誘拐されるという事件では、被害者の安全の確保より、犯人の逮捕を優先させる国もあり、現地の警察と日本から派遣された警察官との間で捜査に対する考え方が真っ向からぶつかることがあるという。何よりも被害者の安全を最優先するのが、日本の警察の捜査である。

 現場に踏み込む場合はどうなのだろうか?

「踏み込む場合も同じだ。被害者対策が先だから、他のことには目もくれず、被害者を守らなければならない。指揮官がきっちりと決断し、全責任を取るということで、現場の連中は奮い立つ。なんとか被害者を救おうと覚悟ができる」

 実際、拳銃を持った立てこもり事件が起きた現場では、防弾チョッキを着ていた部下たちにこう檄を飛ばしたという。

「被害者が撃たれないよう、お前らが盾になるんだ。ホシが撃ってきたら撃ち返せ。いいか、ホシは撃ち殺すという覚悟で行け」

「『拳銃は抜いていけ。もし撃ってきたら、躊躇なく撃て。それじゃないとお前らの命がなくなるぞ』。そう言っておくと、言われた本人はそのつもりで行くから覚悟ができる。覚悟ができていると、それが相手に伝わる。抵抗すればやられると思えば、ホシも抵抗しなくなる」

 この事件は犯人が投降し、無事に解決したという。

「それぐらいの覚悟があれば現場の捜査も思うように進む。だが、現場の捜査員らに覚悟がないと失敗が起きる」

 覚悟は部下を守ることにもつながるのだ。

 話を聞いていると、指揮官の分析力や判断力、決断力だけでなく、この指揮官の下ならばと捜査員たちに覚悟させるだけの人望があるかないかも、捜査の行方を左右することがわかる。

「どんな組織でも部下を守れない、守らない上司というのはいるものだ。そんな上司の下で働くことになった部下は、たまったもんじゃない。まして刑事という職業は、時に命がかかってくる。ベテランはまだしも、まだ若い部下を守れない、かばいきれない上司は“人工衛星”になるしかない」

 彼が例えた“人工衛星”とは、そのポストから異動した後は本庁に戻ることなく、所轄の署から署へとくるくると渡り歩くように異動することを指している。世間一般の会社で例えるなら、異動したが最後、本社には二度と戻れず、支店や子会社に飛ばされ続けるというイメージだ。失敗すれば出世コースから外されるというのはどこの世界でも同じだが、警察という組織ではその意味も違うということだ。

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